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「海神別荘」

「海神別荘」(泉鏡花/岩波文庫)

→戯曲。「海神別荘」は「夜叉ヶ池」「天守物語」とともに鏡花の三大劇とされている。
鏡花三部作として歌舞伎として上演されることもあるらしい。
鏡花の芝居は、言葉の劇というよりもむしろ怪奇な見世物の類だから、
かえって歌舞伎のほうがいいのだろう。
もっとも西欧演劇的だったのは「夜叉ヶ池」で、残り二つはゲテモノ芝居といってよい。
大衆芸能の観客なんか、まああれなわけで、絢爛豪華な衣装を見せられたら、
「あら、すごい」「今日は得したわ」「眼福、眼福」などと、
呆けたように口をあんぐり開けてよだれを垂らしてくれるのだろう。

さて「海神別荘」の話をする。
美女が財宝と引き換えに海神の別荘に行く(まあ竜宮城みたいなものだろう)。
これは人間の側から見たら、大漁のお礼として美女をいけにえにしたことになる。
つまり、漁師一家は娘の美女を海に沈めた。死なせたわけである。
見方を変えると、美女は海の下にある国の公子に見初められた。
さあ、公子と美女の結婚である。
ところが、美女には未練がある。こうして生きていることを家族に伝えたい。
しかし、陸の人間には美女はもう人間ではなく大蛇としか見えない。
絶望した美女は公子に殺してくれるよう頼むが、
直後公子の顔の美しさにのまれ、思わず笑顔を見せてしまう。
公子も美女の笑顔に改めて惚れ直し、結局はめでたしめでたしのハッピーエンドになる。
人間には見えないものが世の中にはあるという、いつもの鏡花ワールドだ。

「人間の目には見えません」(P43)

「勝手な情愛だね。人間の、そんな情愛は私には分らん」(P44)


かりに亡者の住む異界があるとすれば、人の死はそう不幸ではないのかもしれない。
そう信じられたらの話である。

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