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「この世でいちばん大事な「カネ」の話」

「この世でいちばん大事な「カネ」の話」(西原理恵子/理論社)

→人気漫画家サイバラの涙ぐましい成功ストーリーである。
読んでいて思ったのは、
まるで創価学会の会合や座談会で披露される体験発表のようだということ。
どん底の貧乏からいかに努力して成り上がったか、という物語だ。
不良(ワル)が成功来歴を得意気に語るという王道パターンを外れることはない。
これを読むと、いっとき(だけだが)底辺の人間でも成功できるような錯覚を得られるから、
口コミで大ベストセラーになったのだと思う。
もう出版されてかなり経ったいまならみなわかっていると思うが、
本著の愛読者で実際に成功したものはほとんどいないだろう。
ど貧乏な底辺の人間は未来を自力で変えられるという、
カロリーたっぷりでかえって不健康な砂糖菓子のような甘い嘘に飢えているのだ。
実家が周辺よりも比較的に裕福だったサイバラは、
そのことを皮膚感覚で感知したのではないか(P45)。

かなり皮肉な口調で斜めから論じたが、それでも本書は価値がある名著だと思う。
この本を読んでだまされているあいだは少なくとも幸福なのだから。
タイトルの主張する「人生でいちばん大事なのはカネ」というど真ん中の直球もいい。
まさしくその通り! 人生はカネだ! いちばん怖くて優しいのは人間ではなくカネだ!
どうしてサイバラが成功できたかと考えたら、カネがなかったからである。
貧乏の豊かさが本書には実にうまく描かれている(おそらく意図せずに)。
貧乏だからハングリーになれるのだ。
それから裕福の怖さも、
この本をよく読むとわかるようになっている(これまた著者の意図に反して)。
貧困だけではなく、金持になるのもまた怖いのである。

サイバラの旦那はヒモで自称写真家の鴨志田穣(愛称はカモちゃんで故人)。
漫画家はカモちゃんが結婚してからアル中になったと書いている(P222)。
しかし、これは優しい誤解ではないか。
わたしはカモちゃんの大ファンで著作をほとんど読んでいるが、、
彼はサイバラと出逢うまえから9割方アル中だったのではないかと思う。
ただ「いちばん大事な」カネがなかったから身体を壊すまではのめなかった。
ところが、裕福な人気漫画家サイバラと結婚したことでカネに不自由しなくなった。
このため、もとからアル中だったのが本物の病的な依存症患者になったのだと思う。
残酷なことを言うようだが、カネさえなかったら(=サイバラと結婚しなかったら!)
彼は42歳で死ぬことはなかっただろう。
しかし、カモちゃんにとってわがまま三昧に生きて早死にできたことは、
断じて不幸ではなくむしろめったにないたいへんな幸運であった。

かようにして貧乏も富裕も恐ろしいことが本書をよく読めばわかるようになっている。
まったく本当にカネは魔物だと思う。
無駄にあっても、なくても人間をダメにするのだから。
一般論(通念)として貧乏は不幸で、金持は幸福だと信じられている。
しかし実は正反対で怖いのがカネ余りで、豊かなのが貧乏生活なのかもしれない。

サイバラは本当にいい女だと思う。
彼女の好きな男のタイプはむかしから変わらないという。

「いまだにそういうところがあるのよ、わたしには。
世間が押しつけてくるルールなんて、どうでもいい。
俺は「俺ルール」で、ひとつ何かやらかしてやろうって人が大好きで、
おもしろがっちゃうところがある」(P35)


わたしはサイバラのような女性と結婚したいが、
いざそうなったら(幸福かもしれないが)人間として壊れてしまうに違いない。
しかし、サイバラはいい女だ。
サイバラのような女性と結婚できたカモちゃんは最高の幸運児だったのだと思う。
まったく疑いもなくそう思う。

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