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「事故」

「事故」(デュレンマット/種村秀弘訳/「現代世界演劇15 風俗劇」白水社)絶版

「貴婦人故郷に帰る」で知られるスイスの劇作家、デュレンマットのラジオ放送劇。
自動車の事故でやむをえず田舎の豪邸に泊まることになった、
やり手セールスマンの悲喜劇。
人里離れた怪しげな屋敷に迷い込んだ主人公がなにものかの手玉に取られる、
というパターンはホラーものの典型ではないか。
身もふたもないことを言うと、まあ、お化け屋敷みたいなものだろう。
事故に遭う→日常からの逸脱→非日常の侵入→現実の異化(……ブレヒトみたいやね)。
観客は現実への新たな視点を与えられるという、
言ってしまえば教育目的を根底に持つドラマだ。
セールスマンは老人たちの「裁判ごっこ」ゲームに巻き込まれることで、
おのれの意識していなかった犯罪を糾弾される。

我われは他人が落とし穴に落ちるのを楽しむ(=笑う)だけではなく、
自分が(=感情移入した主人公が)落とし穴に落ちるスリルもまた
享楽として満悦できる存在なのだろう。
「怖いもの見たさ」とでも言ったらいいのか。
お化け屋敷で不意をつかれ「ぎゃああ」と叫ぶのもまた爽快なのである。

「気をつけて! 罠だ」(P282)

「後生だ、気をつけて!」(P282)


これらのセリフはジェットコースターの上昇部分に近いのだろう。
何度も脅されなければ我われは恐怖でさえも完全には味わえないということだ。
別の視点から言えば、人間は恐怖ですら楽しんでしまう困った生物なのである。

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