fc2ブログ

静かに見守る

教育、育児、人間関係全般において、いちばん難しいのは静かに見守ることなんですね。
これがあまりにも難業なので、つい我われは助言や激励をしてしまいます。
「がんばれ」と言ってしまう。「がんばろう」と言ってしまう。
うっかりものは助言や激励を善行だと勘違いしていますから手に負えません。
実のところ助言や激励にほとんど意味はありません。
意味があるとしたら助言者や激励者の精神安定に役立つくらいではないでしょうか。
ほんとうに悩み苦しんでいる人は助言や励ましを迷惑に感じます。
そんなことはないと主張なさる人がいらっしゃるかもしれません。励まして感謝されたと。
しかし、苦悩者の「ありがとう」を真に受けてはいけませんよ。
内心では「こちらの苦労も知らないくせに」と思っているかもしれない。
「善人気取りでいい気分だな」と恨まれているかもしれない。
人間、他人の気持はわかりません。他人の苦しみはどうしようもなく理解できない。
この限界を知っている人は、安易な助言や激励を慎む謙虚さを持っているように思います。

それに比べたら金品を渡すのははるかに実効的な面があります。
けれども、なかなか人間は黙って他人に金品を差し出せないでしょう。
いくら身内とはいえ、です。
どうしても金品を提供するときに要らぬ助言や激励をしてしまいます。
金品に見合った自己主張をしようとする。
仕方がないとはいえ、みっともないことです。
被災者への募金額を自社サイトで大々的にPRしている企業がありますでしょう。
なんとさもしいことかと顔をしかめたくなりますが、
こういう繊細な感覚のわからない厚顔な人にしか企業経営は務まらないのかもしれません。
それだけ金品を黙って差し出すのは難しい。
ですから、宮沢賢治のお父さんというのは相当な人物だったと思いますね。
ひたすら放蕩をする息子に対してあのように寛大にはなれませんもの。
あれはめったにできることではありません。稀有なる芸術も生まれるわけです。

金品を提供しないで助言や激励だけするのは、だから偽善と言われてしまうことがあります。
果たして偽善かどうかは不勉強なため断言できませんが、
助言や激励をする自分にうっとり酔っている人はとてもじゃないけど見ていられません。
しかし、助言や激励をしたことで満足している人がどれほど多いことでしょう。
一方それをされたほうは取り残されたような孤独感を味わっているのではないでしょうか。
励ましたからもう終わりか、とがっかりしてしまう。まあ、そんなもんなんですが。
助言や激励に比べて、いかに静かに見守ることが難しいか。
しかし、人生の苦悩者がいちばん望んでいることはこれなのだと思いますね。
自分の苦しみを聞いてほしい。助言や激励はせずに、ただただ聞いてほしい。
無料でこのボランティアのできる人はたぶん釈迦やイエスくらいだったのではないでしょうか。
鎌倉新仏教の開祖もそれをできたのかもしれない。
助言や激励をしないでひたすら他人の苦しみを聞くほど難しいことはありませんから。
高額のカウンセリング料金を徴収して、やっと河合隼雄氏ができたことです。

助言や激励はだれにでもできる。静かに見守るのがどれほど困難か。
だから、と最後にオベッカのようなことを言います(笑)。
だから「本の山」の読者様にはほんとうに感謝しています。
ふつう更新のとまったブログは見ないようになります。しだいに閲覧しなくなる。
しかし、アクセス数を見るとまったく減少していません。
静かにこのブログを見守ってくださっているかたが多くいるということでしょう。
これほどありがたいことはありません。
もとより、あえて、わざと、意識的に、いま「本の山」で沈黙しているのです。
アクセス数目当てに更新頻度を高めたいのなら、
今日食べたものでも報告すればいいのですから、こんな楽なことはない。
ブログなんていうのは、(暇人にとっては)更新しないほうが難しいのでしょう。
あえて沈黙をするのと、あえて助言や激励をしない(=静かに見守る)のとには、
なにかしら共通した人生態度があるように思います。
読者様に恵まれていることをなにものかに感謝して記事を終えます。
静かに見守られていることほど勇気づけられることはありませんから。
――やるぞ!

(追記)いま集中していることがありますので、
緊急ではないご用件は来月にお知らせいただけますと嬉しいです。ありがとうございます。

COMMENT

まあ URL @
05/25 16:10
. 初めまして。
一番難しいのは見守ること。
おっしゃる通りですね。
頑張ってという言葉は時に相手にプレッシャーとなって
タメにならないばかりかマイナスになります。
とても参考になりました。
Yonda? URL @
05/26 02:29
まあさんへ. 

大人気ない記事にコメントいただき、ありがとうございます。
日本人の日常生活において、
「がんばって」はもはや「さようなら」よりも頻度の高い挨拶になっているのでしょう。
ですから、使わずに生きていくことはできないと思います。
ともあれ、便利な言葉であります。
なんにせよ、便利なものはプラスに相当したマイナスがあります。
両方に目を配って生きていきたいものです。








 

TRACKBACK http://yondance.blog25.fc2.com/tb.php/2669-5b865a14