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「黄昏の一杯」

「黄昏の一杯」(開高健/潮文庫)絶版

→対談集。
開高健によると、「毒ヘビは急がない」ということわざがタイにはあるらしい。
宮本輝も、このことわざにこころ惹かれるものがあったようである。
ファンクラブのTシャツのイメージとして使用している。
「毒ヘビは急がない」――。どのような意味か。
開高健は「自信のあるやつはゆっくりしている」という意味としてとらえている。

最後の文豪、開高健がもっとも重んじたものはなんだったのか。
本書を読んでいるうちに、それは時間ではないだろうかと思った。
美食家の文士・開高健は、この問題を繰り返し本書で語っている。
文学も料理も時間をかけなくなった。どうしてこうなってしまったのだろう。
なにゆえ日本人は「毒ヘビは急がない」を忘れてしまったのか。
人生でいちばん価値あるものは時間かもしれない。
作家は多忙のサントリー社長、佐治に平然として本音を言ってのける。

「すると、時間を持ってる人、
自由に時間を使っている人は本当の金満家やという感じがある。
じゃ、佐治さんは全然貧乏人やねぇ」(P142)


名文も美食も味わうところは時間なのかもしれない。どれだけ時間をかけたか。

「このごろ、ぼくはあまり読まなくなったけれども、
いま日本で書かれているものって、およそ何を読んでも文章がカサカサなのね。
スープっていうのは、
サラに入れたときは一センチか二センチたらずの深さしかないけれども、
それを取るためには、骨やら野菜やら肉やら、
膨大なものを煮詰めてから出してくるものでしょう。
ふくみ味っていうか、隠し味っていうか、
そんなふくらみのあるスープって感じのする文章がない」(P114)


「文学というのは浪費せんとあかんで。
精液、時間、精力、とにかく浪費やな。
浪費が生産性に転化するというのが、唯一の文学の例やね」(P63)


浪費とは、大量の時間と金を無駄に費やすこと。
現代人がなかなかできることではない。うん? なにができないというのか?
しつこいようだが、「毒ヘビは急がない」である。

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