「暁は寒かった」

「暁は寒かった」(早坂暁/大和書房)絶版

→テレビドラマシナリオ。NHK前編・後編。昭和55年放送作品。
いまは怒りがないからいけないのだと思った。もっと日本人は怒らなければならない。
最近は怒るといえば、立場が下のものにしか怒らないではないか?
店員を土下座させて満足するような怒りではない。
もっと大きな理不尽なことに、しっかり怒ろう。
早坂暁は「暁は寒かった」で怒っている。憤怒からシナリオを書いた。
ドラマは実在の事件をモデルにしている。
無罪なのに裁判で有罪との判決を受け、夫殺しの罪で13年ものあいだ服役した母親――。
こういうことはいけない。こういうことがあってはならない。
人間が裁くのだから、どうしようもない、などとあきらめてはいけない。
運が悪かったんだよ、などと訳知り顔であきらめてはいけない。
結局は泣くしかないのだろうが、泣くまえに怒らなければならない。
泣くのは、怒って怒って怒って、相手に憤怒を刻み込んでからである。

ドラマで13年ぶりに出所した母親はあっけなくガンで死んでしまう。
娘の律子は、事件を目撃した。覆面男がお父さんを殺した!
しかし、娘の証言は裁判で採用されなかった。そのときから律子はうまく喋れない。
律子のことを好きな三波は、逢いに行こうと言う。
お母さんを刑務所に入れた人、第一審の裁判長に逢いに行こう。

三波「律ちゃん、会うんだ」
律子「会って……どうするの?」
三波「律ちゃんの思っていること、一番いいたいことを言うんだよ」
律子「今さら言ったって……お母さん死んじゃったわ」
三波「言うんだよ、なんでもいいから。そうでないと、律ちゃんは一生喋れないぞ。
自分の思っていることを言えなくなってしまうぞ。……いいね、行って言うんだよ」
律子「……(うなづく)」(P136)


律子は三波に支えられ、かつての裁判長に怒りを伝える。
裁判長は謝罪することもなく、大声を出して二人を追い返した。
早坂暁は、律子を流暢に喋らせるかといったら、そんな甘いことはやらない。
歌わせもしない。歌うのは三波だけである。
夜、海辺の二人。三波の歌声が静かに。「時には母のない子のように」である。

●夜明け
海に陽がのぼる。
浜辺の二人、ゆっくり立ちあがる。
日を見つめながら、波うちぎわまで歩き出す律子。
そして、三波もゆっくりと――」(P140)


早坂暁は最後まで怒っているのである。
いまのドラマやシナリオに接して思うのは、どれも怒りが足らないということである。
本気で理不尽なことに怒っている作品がない。
どうせそんなものだよ、大人になろうよ、テレビなんて娯楽だからさ!
そういう投げやりな感触を受けてしまう。
自戒をこめて思う。どうして我われは怒らないのだろう。
(なーんて、わたしは憤怒マシーンで、シナリオ・センターにいまでも怒っているけれど)
怒りほど創作のエネルギーになるものはない。
山田太一ドラマのどれほどが、脚本家の理不尽なことへの怒りから書かれているか。

脚本家の早坂暁は、原爆への怒りから人生をスタートしたのだろう。
今年80歳の早坂暁はまだ怒っている。

--最後に次の構想を。

早坂 春子の映画をつくりたい。

--春子さんは、早坂さんが5歳のときに、遍路道沿いにあった実家の前に捨てられていたのですね。

早坂 3歳違いの妹として一緒に育ちました。海軍兵学校に行ったあと、母親は僕の相手にと考えて、春子に生い立ちを正直に話したそうです。春子はすごくうれしそうな顔をして、僕に会いに行き、自分の口から話したいと防府を目指して出発したのです。なんとそれが8月4日です。

 8月5日に広島に泊まり、翌朝の臨時列車に乗るつもりだったとまでは推測できましても、どこで死んだのか、遺体はもちろん一片の骨も見つかっていません。ただ3000枚からなる素人の描いた原爆の絵のなかに、真っ黒に焼け焦げた男か女かわからない死体を見て、「春子の被爆死」を僕なりに理解できました。春子のドラマを通して、原爆はこうして人間を殺すのだと伝えたい。日本人でないと作れない唯一の映画ではないですか。

「今、平和を語る:作家・脚本家、早坂暁さん」
http://mainichi.jp/select/wadai/heiwa/talk/news/20090727ddf012070025000c.html



COMMENT

- URL @
09/10 07:35
忘れられないドラマ. この忘れられないドラマについて遍路して歩いております。
Yonda? URL @
09/10 09:00
忘れられないドラマさんへ. 

そういうドラマがあるというのは、とても素敵なことですね。








 

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