「冬構え」

「冬構え」(山田太一/新潮文庫)絶版*再読

→テレビドラマシナリオ。昭和60年放送作品。NHK。単発もの。
山田太一はテクニックも一流である。
書きたいこととテクニックをあわせ持つ作家を天才というのであろう。

孤独な老人、笠智衆が一人旅におもむく。
老人を風呂場にだれと入らせるか。
騒がしい家族連れとである。老人の孤独が強調できる(P94)。

ナゾをつくる手腕も見事である。ドラマはうまいナゾをつくるに限るのである。
ナゾに視聴者は引きずり回されてしまう。
このドラマのナゾは、さほど裕福にも見えぬ笠智衆が散財するところである(P104)。

旅先での出逢いを描くのも巧妙というほかない。
いくつかの観光地で笠智衆と美しい人妻を一緒にさせる。
それから「出逢い」のところ(話しかけるシーン)をカットして、
いきなり「そば屋」で向き合わせて会話をさせてしまう。
まったく不自然ではないのだから。省略の天才である(P112)。

「二人、笑ってしまう」(P120)
山田太一ドラマのあたたかさ、ぬくもりがこのト書きに象徴されているように思う。
脚本家はシーン尻に「二人、笑ってしまう」を書きたいから、セリフを仕組むのだろう。

シーンのつなげかたも勉強になる。
笠智衆が温泉宿で豪華だがひとり味気ない夕飯を食べている。
このつぎのシーンで、若いカップルがビジネスホテルで弁当の晩飯を済ましている。
夕飯でふたつのシーンをつなげているのもうまいし、対照も効果的である(P122)。
ラストシーンもおなじ原理を用いている。
未来に絶望しかない老人ふたりの会話――。
このあいだに若々しい恋人同士が笑いあうシーンを挿入するのである。
シーンとシーンのメリハリがすばらしい(P167)。

山田太一特有のセリフまわしにもゾクゾクさせられる。
脚本家は「ああ」「うん」「うん?」「そう」「そうか」を多用する。
山田太一のセリフのうまさは多岐にわたるが、そのうちのひとつが相槌の味わいである。
相槌とは話し手のセリフを聞き手が受け取るために用いるもの。
凡庸なシナリオ・ライターは会話の担い手を話者だと錯覚している。
実のところ、会話は聞き手の比重が大きいのではないか。
相手の話を聞く耳が、会話を成立させているとは考えられないか。
山田太一ドラマの相槌の多用は、聞き手を重視しているのであろう。
実際の会話でもおなじである。本当は話すよりも聞くほうが何倍も難しい。
ならば長ゼリフを言うよりも、ひとつの相槌を打つほうが困難なのではないか。
相槌は山田太一ドラマの独特な世界を構成している要素のひとつである。

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