シナリオ・センター研修科課題第7回目。「宿命」(20枚)。

<人物>
志賀哲也(33)自称映画監督
高瀬千春(29)その恋人で自称映画監督
古家眞(54)O田区立小池小学校校長

*男女はドキュメンタリー映画作家を自称している。

○アパート・千春の部屋
高瀬千春(29)が床に座る。
志賀哲也(33)が千春をビデオカメラで撮影している。
志賀「スタート」
千春「――」
志賀「ほら、なにか言わないと」
千春「――」
志賀「そろそろ観客が怒り始めるよ」
千春「――」
志賀「いくら自主映画の観客だって、そこまで寛容じゃない。
なにも喋らない女優のアップをずっと見ていてはくれない」
千春「編集で切ればいいじゃない」
志賀「第一声が出たね。その調子だ」
千春「それに私は女優じゃない」
志賀「きみはだれか?」
千春「――」
志賀「だれ?」
千春「哲学?」
志賀「哲学者のアリストテレスは言っている。
ドラマとは行為である。行為の再現がドラマである。
肝心なのはアクションだ。きみはいま大勢の人間に見られている。さあ」
千春「なにがしたいの?」
志賀「ドラマを撮りたい。人間を撮りたい。
魅力的な人物の登場する映画を撮りたい。人を感動させたい。人から評価されたい」
千春「なにを言えばいいの? なにをすればいいの?」
志賀「きみは台本をもらわないとセリフひとつ言えないのか? 
自分の言葉というものを持っていないのか? 
言いたいことはないのか? この大根役者め!」
千春「もしかして喧嘩、売ってる? なにそれ。バカみたい。
どこかのシナリオスクールで教わった? ドラマは葛藤だ」
志賀「――(ニヤニヤと撮影する)」
千春「つかみかかればいい? カメラを取り上げればいい? 
どんな葛藤を作ろうか? そんなことして本当におもしろい映画になると思う?」
志賀「――(ニヤニヤと撮影する)」
千春「ねえ、なんか言って。ちょっと、フフ、怖い。ねえ、なにをしたらいい?」
志賀「シナリオはない。なにをしてもいい」
千春「じゃあ、なにもしない」
志賀「それはいけない」
千春「どうして?」
志賀「カメラがまわっている。観客がきみを見ている。きみはなにかしなければならない。
観客を満足させるなにかを。刺激的なセリフを言ってくれても構わない」
千春「わからない」
志賀「――(ニヤニヤと撮影する)」
千春「――」
志賀「早く」
千春「なにもない。私にはなにもない」
志賀「――(ニヤニヤと撮影する)」
志賀「だから(と立ち上がる)、せめて、脱ぎます。ごめんなさい」
衣服を脱いでゆく千春。
志賀は撮影をやめない。

○アパート・志賀の部屋
志賀がウイスキーをロックで飲む。
今度は千春が志賀をビデオカメラで撮影している。
千春「スタート」
志賀「(カメラに向かって)みなさんはディオニュソスをご存知ですか? 
ギリシアの神さま。別名バッカス。お酒の神さまで、陶酔や興奮と縁がある」
千春「フフ」
志賀「演劇の起源はギリシア悲劇だが、
古代ギリシアでドラマはこのディオニュソスに捧げられた。
だから、酒が演劇を作ったと言ったら語弊があるのかもしれないが」
千春「――(ニヤニヤと撮影する)」
志賀「酒を飲むと思い切った行動ができるのは事実だ。さあ、行こう。町へ出よう」

○古家家・玄関
志賀がドアのチャイムを押す。千春が志賀をビデオカメラで撮影している。
古家眞(54)がチャイムに答える。
古家の声「どちらさまですか?」
志賀「わたくし、先生の二十年前の教え子で、志賀と申しまして、
今日は、ちょっとその、お話が」

○同・居間
志賀がテーブルまえに着席。千春が志賀を撮影。
麦茶を持った古家がやって来ると千春は古家にカメラを向ける。
古家「(カメラに戸惑いながら)いえね。妻は娘と出かけていまして」
志賀「お構いなく」
古家「――」
志賀「――」
千春「――(志賀と古家を撮影している)」
古家「ご用は――」
志賀「――(緊張している)」
古家「懐かしいな。嬉しいんですよ。むかしの教え子が来てくれるなんて」
志賀「――(爆発一歩手前)」
千春「――(志賀を煽るようにカメラで撮影)」
古家「なにかな?」
志賀「おい、謝(あやま)れ! おまえ、おまえ! 
二十年前になにをしたのか覚えているか」
古家「――」
志賀「さんざんおれを殴ってくれたよな。この体罰教師が! 
えこひいきも激しかった。自分の気に入った生徒だけかわいがる。嫌いな生徒はぶん殴る」
古家「なにを――」
志賀「変態ロリコン教師が! 
おまえ、女子の身体検査を決まって自分でやっていたよな。
ほかのクラスはみんな保健室。おまえだけ六年の女子を教室でパンツ一丁に」
古家「コノヤロウ」
志賀「いまは校長だと? 変態暴力教師が出世したもんだな、おい。
おれは二十年間、おまえを許していないぞ。
偽善者で、ロリコンで、すぐ子どもを殴る。最低教師! 謝れ。ここで手をついて謝れ!」
古家「コノ、コノ、コノ(と激昂する)」
志賀「土下座して謝れ!」
千春「――(撮影をやめない)」
古家「おい、女、なにを撮っている!」
古家はカメラを取り上げようとする。
志賀「構わない。続けてくれ」
古家と志賀はもみあいになる。古家は急に力なく床に座る。
そうなると志賀もどうしたらいいかわからない。おなじようにその場にしゃがみこむ。
古家「(困りきって)なんなんだよ、おまえら」
志賀「ハハ。アハハハハ」
古家「おかしいよ。変だって」
志賀「古家先生、変わってないっすね」
古家「いきなり、なんだよ」
千春「志賀くん、ダメ! もっと、もっと」
志賀「もういいよ。なんかバカらしくなった」
千春「志賀くん!」
志賀「先生がかわいそうでさ」

○道(夕方)
志賀と千春が歩く。
志賀の肩にカメラの入ったバッグ。
志賀「後味(あとあじ)が悪い」
千春「でも――」
志賀「うん?」
千春「ありきたりじゃなかった。今日はありふれた一日ではなかった」
志賀「明日になってすごい後悔しそう」
千春「でも――」
志賀「なんかね、自由に行動したって気がしないんだ。
やった、ではなく、やらされた、という気がしてさ」
千春「私に(やらされた)?」
志賀「違う」
千春「じゃあ、だれに?」
志賀「うん(と突然、背後を振り返る)」
千春「どうした?」
志賀「だれかに見られているような気がして」
千春「大丈夫?」
志賀「これだ!(と千春のスカートをめくる)」
千春「なに?」
志賀「ダメだ。あいつに先回りすることは、どうしたってできない」
千春「あいつ? どういうこと?」
志賀は立ち止まる。異常なほどの沈黙。
千春「わけわかんない」
志賀「なにを言っても、そのセリフはすでにシナリオに書いてあるような気がしてしまう。
どんな行動をしても、それはきっとト書きに書かれている。――自由が、ない」
千春「そんなことない。これからどうするかは私たち次第。
ケーキを食べに行っても、お酒を飲みに行ってもいい」
志賀「人を殺せるか?」
千春「え?」
志賀「自殺できるか?」
千春「極端」
志賀「こうしよう。役割を変えよう。
いまからおれはお姫さま。千春は王子さまという設定で話そう。
いや、ダメだ。こんなことではあいつの裏をかくことはできない。
くそ、なんとかして出し抜いてやるぞ」
志賀はバッグからビデオカメラを取り出し、この映像を撮影しているカメラに迫る。
カメラの「合わせ鏡」状態。
志賀「ダメだダメだダメだ! くだらない。ありきたりだ。
ああ、笑い声が聞こえる。みんながおれを嘲笑っている。
つまらないことしかできないデクノボウ!」
千春「落ち着いて」
志賀「気が狂いそうだ。どうしたらいい?」
千春「いまから私が言うことを、そのまま繰り返して。これは私が考えたことだから」
志賀「ああ」
千春「つまらないシナリオでごめんなさい。けれど、私たちはこの人生を愛しています。
たとえ、あなたにはつまらなくても、私たちにとってはかけがえのない人生だから」
志賀は千春のセリフを繰り返す。


(補)とにかく書けなくて。コンクール応募作に没頭していたため心が栄養不足。
なにか書こうと思っても、内部が乾燥しきっており、なにも生まれてきません。
連続課題提出記録もこれにてストップと八割がたあきらめていました。
スクール開始時間は6時半。3時半に書き始めたのが、このシナリオであります。
説明しますと、役者にとってシナリオは宿命でしょう。
役者に自由はない。かならず決められたセリフを言わなければならない。
動作もト書きで指定されています。ひるがえって、我われはどうでしょうか。
ほんとうに我われのシナリオ(宿命)がないと言い切れるものでしょうか。
ところが、この問題を突きつめると、狂気にいたるしかありません。
ひと言で要約すれば、「古臭い前衛ドラマ」です。
つまらない。わからない。しかし、わかったところで「クスッ」と笑うくらいでしょう。
これをあろうことかシナリオ・センターに持って行くことのできるおのれの強心臓が恐ろしい(笑)。

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07/23 16:31
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