「書きたい! 書けない!」

「書きたい! 書けない!」(マリサ・デュバリ/別所里織訳/愛育社)

→著者は米国人女性ストーリーアナリスト(物語分析家)出身。
映画産業が日本のように斜陽になっていない米国では、
映像製作が(趣味ではなく)巨大な利益を生み出す投資行為となっている。
映画の根幹をなすのがシナリオである。
失敗の許されないシナリオ創作の助言をするのがストーリーアナリスト。
米国映画産業ならではのビジネスだ。
著者はここからスタートしていまはシナリオのスペシャリストになっているという。
本書は、ハリウッド映画の作りかたとでも言おうか。
非常にアメリカ的なシナリオ創作論が展開される。
いい映画とはなにか? できるだけ多数の観客に支持され収益を見込める映画である。
この定義に疑義をはさむものを著者は理解しないだろう。
ならばシナリオライターはなんのために作品を仕上げるか。

「ライティングはある意味、面白くて、名も売れて、金銭的にも報われる職業である。
ポスターや広告、劇場の看板に自分の映画の題名を見るのは
とてつもない快感があるし、
スターたちも集まる自分の映画の祝賀会やプレミア上映に出席するにいたっては、
もう最高の気分だろう。
栄光やお金、華やかなパーティー、有名人の友達。これらはまさに、
あなたが目標に到達するのに費やした信念と努力の報酬なのである」(P158)


これらのものを得るにはどうしたらいいのか。
著者は技術論よりも、むしろ精神論に重きを置く。
シナリオ創作に必要なのは、ポジティブ・シンキングと潜在意識の活用である。
ありゃあ、と落胆したものは正しい。
このふたつは安っぽい成功哲学やビジネス本の両輪なのだから。

ポジティブ・シンキング――。
毎日、成功した自分をイメージしよう。どうして成功できないのか。
ほんとうは成功をしたくないと思っている自分がいるため。
だからこそ、ネガティブな思念をいだかないようにする必要がある。
信念を強く持てばかならず願望がかなうことに気づこう。

潜在意識――。
人間には表層意識の下に巨大な潜在意識が眠っている。
脳科学的に説明すれば、左脳が表層意識、右脳が潜在意識である。
ふだん使われない潜在意識=右脳をうまく活用すれば良質なシナリオが書ける。
例によって、オカルト好きの教祖、ユングがもっともらしく引き合いに出される。
シナリオ創作で行き詰ったらどうしたらいいか。
眠りなさい。きっと夢で答えが与えられる。さもなければシンクロニシティが生じる。

ポジティブ・シンキングと潜在意識を活性化させるためにはどうしたらいいか。
ノートを作ろう、である。ただのノートではない。マジック・ノートを作ろう。
このノートによってマジックが起こるのだ。
思いついたことをなんでもマジック・ノートに書き込みなさい。
右脳を刺激するためにカラフルなペンを何色も使うのが好ましい。
それからマインドマップを作成するとよろしい。
例のノートに思いついたストーリーをそのまま書いてゆく。
左脳の働きよりも早いスピードでアイディアを書き散らすことがポイント。
左脳は右脳の思いつきをすぐに批判してしまう。
この左脳による検閲を避けるためにあなたはマインドマップを作るのだ。
やりかたは、思い浮かんだことを左脳が判断するまえに紙に書き出せばOK。

本書に技術論も記載されている。とはいえ、後出しジャンケンであるのは否めない。
成功した映画を例に挙げ、ここがすぐれていると紹介するのみ。
売れた映画の共通項を箇条書きにして、なにかを説明したつもりになっている。
こういう映画が売れるというのは、だれでもかなりのところまでわかっているのだ。
ところが、どうしたらそういった売れる映画のシナリオが書けるのか。
みなみなここがわからずに苦しんでいるわけである。
この問いに本書が与える答えは、ポジティブ・シンキング(笑)。潜在意識(笑)。
毎日成功している自分をイメージしよう。
いいシナリオが書けるよう願いながら毎晩枕元にマジック・ノートを置いて夢を見よう。

売れるシナリオになるかどうかのチェックリストを著者は書き出しているので引用する。
当たり前だよな、とみなさまに苦笑していただきたいからである。

「1.創作中のストーリーを1つ選び、自分に聞いてみよう。
>主人公は観客がひと目で好感と共感を持てる人物か。
>ストーリーは観客を惹きつけ、90分以内にどう終結するのだろうと興味を持たせられるほど面白いか。
>鍵となるシーンでキャラクターの変化や成長があるか。
>すでに作られた古典的なストーリーに新鮮なアプローチを取っているだろうか。
2.脚本の構想を、初め、中、終わりからなる3章構成で考えよう。
3.出演してもらいたい人気スターをあげてみよう。
4.アクションや特殊効果が必要となりそうなシーンをあげてみよう。
5.緊張感やサスペンスに満ちたシーンをあげてみよう。
6.主人公がその成功に賭けているものは、観客が感情移入できるほど重要なものか。
7.キャラクターたちがぶつかる壁は何か書き出してみよう。
8.即座に観客の興味を惹きつける冒頭シーンをどう作るか。
9.ストーリーの中に読み取れる葛藤をあげてみよう。
10.危機感をどう生かすか。
11.サスペンスをどう生かすか。
12.ストーリーの中の普遍的なテーマや願望を書き出してみよう」(P41)


どうしたらすべてのチェック項目を満たすシナリオが書けるのか。
ポジティブ・シンキングで生きながら潜在意識におうかがいをたてろ、ということか(笑)。

(追記)これはテレビドラマと映画の相違とも関係すると思うのだが、
本書でこんな指摘がなされている。

「私の経験で言えば、あるシーンでの会話や出来事が、
ストーリーを進展させなかったり、
キャラクターについての興味を持たせるような情報がない場合は、
そのシーンやセリフは削るべきである」(P52)


山田太一のドラマ作法と正反対である。
必要のないシーンが作品に味わいをもたらすと日本の脚本家は考えている。
無駄のないほうが洗練されていていいのか。それとも無駄はあってもいいのか。
大きく意見のわかれるところだと思う。
アメリカ的合理主義か、あるいは、あえて非合理を重んじるか。

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