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「島の農民」

「島の農民」(ストリンドベリ/草間平作訳/岩波文庫)品切れ

→陰惨な小説を好んで書く作者にはめずらしい牧歌的な娯楽小説である。
離島のとある屋敷に奉公へおもむいた下男(男の召使)の一代記。
下男が狡知を働かせ、屋敷の老未亡人に取り入り、ついには一家の主人となる。
むろん、下男の成り上がりたいという欲望が容易にかなうものではない。
未亡人の長男と、この下男は何度もあらそう。

ストリンドベリならではと思うのは、人を侮蔑する場面の多さである。
この作家はどれほど劣等感が強かったのだろうか。
作者は人が人を愚弄する場面をことさら好んで描く。
ストリンドベリ作品を読むと、他人を小馬鹿にするのがいかにおもしろいかわかる。
それにしても作中人物が、軽侮の念を隠すことなく相手にぶつけるのには驚く。
おそらく毛唐固有の野蛮性ゆえであろう。
歯をむきだしにして嘲笑するしぐさは日本人には似合わない。
あれは毛唐がやらないと様にならない最たるものである。

嘲笑される。悔しくて歯ぎしりする。機を見て復讐する。勝ち誇る。
ストリンドベリの作中人物が愛好する行動パターンである。
言うまでもなく、復讐されたほうは因果応報なのだが、
こちらも受けた屈辱を決して忘れずいつかの復讐を誓うからエンドレスとなる。
ストリンドベリ・ワールドでは、どちらかが死ぬまで人と人は傷つけあう。
なにゆえか。簡単なことである。
人を傷つけるのは楽しいのである。反対に傷つけられると悔しいのである。

教会の牧師が、下男にコーヒーをすすめられる。牧師は冷たく言い放つのである。

「お前はここの主人か、下男奴?」
「お前は、おのれの身分を知らんのか?」(P129)


のちにこの牧師は下男から復讐される。
田舎楽士が都会の教授にへつらう場面もたまらない。
楽士は地元の仲間を「土百姓」とおとしめるのだから。

下男と別荘の料理女との交情もいかしている。
料理女はべっぴんである。
けれども、所詮は料理女だろうと下男は交際を求めるのである。
祭りの夜、田舎ではいちばんナウかった下男は料理女との青姦に成功する。
おまんこさせてもらったわけである。
シーズンが終わり別荘の一行は都会へ帰ってゆく。
下男はすっかりモボ(モダンボーイ)気取りで感傷的な恋文を送る。
後日、都会へ行く用事があったので、下男はかの屋敷を訪問する。
料理女はいなかった。女中仲間からひどいことを教えられる。
下男の書いた恋文は、みんなに廻し読みされたという。
大いに物笑いの種になったというのである。
田舎の下男ふぜいが似合わぬロマンチックなことを書きやがる。
実は、料理女は都会に身分のある婚約者がいたのである。
婚約者をふくむたくさんの人間のまえで下男の恋文は繰り返し読まれたという。
そのたびに哄笑が起こった。

下男が老いた女主人と結婚して地位を手に入れようと決意するのはこのときである。
たしかに下男は金も身分もないが、とびきりの若さがある。
女主人は美貌がないとはいえ、財産と性欲がある。
うまく釣り合いが取れるというわけである。
ストリンドベリの狂える筆は、あらゆる美しきものを地に落とし踏みにじる。
地団太を踏みながら高笑いするストリンドベリから、
愛を痛切に求める赤子めいた物悲しさを感じはしないか。

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