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「文章作法」(桑原武夫/潮文庫)絶版

→桑原武夫は文章の理想をこのように定義している。

「文章の理想というのは、その文章によって外界が
――恋文であれば好きな人の心ですが――ともかく、
自分以外の人間または物が何ほどか変化する。
それが大切なのではないか、というふうな気がします」(P23)


言葉の重さを熟知する学者の言葉である。
人間は言葉によって外界を変えていくことができる。
たとえばいい小説を読んだとする。その日、1日気分がよかった。ひとに親切もした。
このとき小説家は外界を変えたといえるのかもしれない。

桑原武夫は名文の例として、自分の書いた文章を提示するのだが(P41,53,86)、
その勇気は賞賛されるべきとしても、文章自体は決してよいものとは思えない。
自分の書いた文章がどのようにいいか解説する桑原武夫には辟易した。
本書の後半は、しろうとの書いた文章の添削である。
というのも、本書はしろうと向けの文章講座を書籍化したもの。
この添削もあまり興味を引かなかった。原因は文章に向きあう姿勢にあると思う。
この文章講座の受講者は毎回お題を与えられて作文を書く。
こういった文章がおもしろくなるはずがないのである。
重要なのは自発か強制か、というところにあるのではないか。
テーマを与えられて書かされた文章がおもしろくなる可能性は低い。
書かざるをえない文章がひとの心を打つのである。外界を変えるちからを持つ。
本書に掲載されたしろうとの文章例を読みながら嘆息した。
書きたいことがないのなら書かなくてもいいのではないかと思った。

井上ひさしがかつて文章講座でだしたお題はこうである。
「いま悩んでいること」を書いてください。
桑原武夫と井上ひさし。学者と実作者の相違である。どちらが深いかは言うまでもない。

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