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「中国文学入門」

「中国文学入門」(吉川幸次郎/講談社学術文庫)

→薄い本ながら1冊で中国文学全体の俯瞰図(ふかんず)が得られる。
むかしの大学者はこういったわかりやすく、
かつおもしろい入門書を書いてくれるので助かる(池田亀鑑の「日本古典入門」もそう)。
本書で知りえた知識をまとめてみる。
現在の学説からは否定されているものもあるかもしれないが、
一般読者にとってそんなことはたいした問題ではない。

中国文学の特徴は以下の3点である。
・ノンフィクションを重んじる。虚構を軽んじる風潮がある。
・文学は政治と密接な関係をもつ。政治に参与しようと思ったら文学は不可欠。
・恋愛よりも友情を尊ぶ傾向がある。

さらに付加するならば、中国文学は詩文の歴史が長い。
8世紀になって韓愈(かんゆ)が登場することで、
ようやく散文に価値が見いだされるようになる。
といっても、韓愈の書いたのは実際に起こったことのみ(ノンフィクション)。
中国文学において虚構がはじめて登場するのは13世紀、
元の時代の戯曲をもってである。
もっとも元代に隆盛した演劇は知識人に評価されたわけではない。
一般大衆に支持された演劇は、幻想的なものではなく、
やはり中国的というべきか、現実的・叙事的・庶民的なものであった。
これと関係することだが、中国に古代ギリシアのような荒唐無稽な神話は存在しない。
中国人にとって人を救う神という超越的な存在は考えられなかった。
この結果、生みだされたのが聖人という観念である。
聖人は神ではなく、人の延長線上に位置する。中国人は神のかわりに聖人を待望した。
中国文学史をかんたんにまとめると以下のようになる。

詩経(無名人による日常賛歌)
 ↓
楚辞(感情的な激しさを有する=抒情詩の高まり)
 ↓
五言詩(定型の完成)
 ↓
陶淵明(自然賛美。詩作の対象が人間から自然へ)
 ↓
李白・杜甫(中国詩の最盛期)
 ↓
白居易(白楽天ともいう。日本王朝文学への影響大)
 ↓
韓愈(散文のはじまり)
 ↓
戯曲(虚構のはじまり。市民階級に愛された)
 ↓
「水滸伝」「西遊記」「金瓶梅」(小説のはじまり。町人文学)
 ↓
魯迅(ろじん)の文学革命

本書で杜甫の魅力を教えられた。もとより、いまだに杜甫をいいとは思わない。
ただ、広く杜甫が詩聖とあがめられている理由を了解したということである。
杜甫には、有名な、子どもを亡くしたときの詩がある。
その詩のどこがいい(と一般的に思われている)のか。
杜甫が最愛の子を亡くした悲嘆を述べるにとどまらず、
自分よりもさらに苦労している貧民がいることに思いを馳せているからである。
なるほど、いかにも道徳的というか教科書的というか。
たとえは悪いが、不幸な健常者が障害者の苦労を思いやるようなものである。
杜甫のそのような箇所がすばらしいと評価されているようである。
もうひとつ、杜甫には有名な詩がある。
嵐に遭遇して自宅が崩壊したときのことを描いた詩である。
このとき杜甫は夜半、雨にぬれながら、ある夢想をしている。
大きな家があったらいいのに、というのである。
そこに貧しい人が集まりみんなで幸福に住める、
そんな家があったらいいのに、と杜甫は詩で嘆く。
もしそのような施設ができるのであれば、自分などは死んでもいいとうたっている。
無学なわたしなどは、なにを甘ったれた絵空事をいっているのだと思うが、
世界の文学愛好家はこういった杜甫の人類愛に感銘を受けるものらしい。
本書のおかげで、杜甫がどうしてああも名声を勝ち得ているのか理解することができた。

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