76年生まれの銀行員

先日、必要があって某銀行で新規口座開設の手続きをした。
こちらの身なりで判断したのだろう。極めて横柄な対応を取られた。
あたまに来たので、書類の記載でいたずらをした。
総資産額を記入する欄に実際の10倍もの金額を書き入れたのである。
男性の態度のがらりと変わったのが笑えたが、むろんその場で笑ったわけではない。
いまから考えると笑えるという話である。
急に腰の低くなった銀行員は、あれこれと投資をすすめてくる。
銀行員と話す機会などない。なにかに使えるかもしれないと話を聞いてみることにした。
かれらのやり口というのは、顧客に夢を見せることなのである。
こういう聞かれかたをする。
「いまの金額がいくらになったらいいと思いますか」
これに答えると、なんらかの投資を紹介されるわけである。
だが、もとよりフィクションである。実感がわかない。こう答えた。
「いくらになったらとかないですね。リターンの希望額はないです。
万が一リスクでぜんぶなくなっても、それがわたしの人生だと思うし」
こんなことをいう顧客はいないのだろう。
かなり戸惑っているのが見受けられた。

つぎになにを聞かれたか。
「趣味はなんですか」である。
これも答えに窮する。
「とくに趣味とかないですね。ほんとありません」
銀行員はひどく狼狽している。悪いことをしたと思い助け舟を出す。
「お酒、好きといえば好きです。といっても、安酒でいいんですが」
水を得た魚のように生き生きする銀行員さん。
ある仕組み預金の説明に入る。
「おカネが増えて困ることはないでしょう。
使いみちに困ったらビルのてっぺんからふりまけばいいんだから」
このひと、なんかやけくそになっていないか。
「これはかならずもうかります」とある商品をしきりにプッシュする。
「いまは円高だからほとんどリスクなんてありません。
毎年、〜万円、利子がはいるんですよ。これでいっぱいお酒がのめるじゃないですか」
リスクの説明はほとんどなかった。即決を迫られたので驚いた。
なにかあるとすぐにお酒の話である。
「この利子でお酒をのめばいいじゃないですか」
おまえ、おれを酒で殺すつもりか。
話がひと段落つく。銀行員が身の上話をはじめる。
おない年だというのである。おなじ76年生まれらしい。
「あの就職氷河期に銀行へ入るなんて優秀なんですね」
持ち上げてみる。すると、話す、話す。
いろいろたいへんだったらしい。
最初に就職した銀行で、こころを病んだ。2年で退職して海外逃亡。
ふたたびいまの銀行へ転職したという。
やはり最後は投資のすすめに結びつく。
「お客さんは他人という気がしないんです。
おない年ですし。ぜったいに損をしてもらいたくないんです。
私を信じてください。おカネを増やしていきましょうよ」

ごめんな。そんな大金ないんだほんとは。
帰宅してからすすめられた金融商品をネットで検索する。
幾人もの経済評論家が悪徳商品だと評していた。
リスクばかり大きくてメリットがぜんぜんない。
銀行がもうかるための商品ということである。
たしかにプロの意見を読むと、まったくもってそのとおりである。
それだけではなく、なんでもこの商品はかつて広告で不当表示を行ない、
公正取引委員会から排除勧告を受けたことがあるという。
まったくもう76年生まれの銀行員さんは(笑)。
これが話の落ちではない。
勝ち組と負け組がはっきりわかれたな、という感慨があったのである。
銀行員のかれは疑いもなく輝いていた。
口八丁手八丁ながらも完全なまでにやり手の銀行員であった。
見習いたいと思った。ひとをだます手口などほれぼれとするものがある。
いつまでも負けてはいられないと思う。

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