先日、必要があって某銀行で新規口座開設の手続きをした。
こちらの身なりで判断したのだろう。極めて横柄な対応を取られた。
あたまに来たので、書類の記載でいたずらをした。
総資産額を記入する欄に実際の10倍もの金額を書き入れたのである。
男性の態度のがらりと変わったのが笑えたが、むろんその場で笑ったわけではない。
いまから考えると笑えるという話である。
急に腰の低くなった銀行員は、あれこれと投資をすすめてくる。
銀行員と話す機会などない。なにかに使えるかもしれないと話を聞いてみることにした。
かれらのやり口というのは、顧客に夢を見せることなのである。
こういう聞かれかたをする。
「いまの金額がいくらになったらいいと思いますか」
これに答えると、なんらかの投資を紹介されるわけである。
だが、もとよりフィクションである。実感がわかない。こう答えた。
「いくらになったらとかないですね。リターンの希望額はないです。
万が一リスクでぜんぶなくなっても、それがわたしの人生だと思うし」
こんなことをいう顧客はいないのだろう。
かなり戸惑っているのが見受けられた。
つぎになにを聞かれたか。
「趣味はなんですか」である。
これも答えに窮する。
「とくに趣味とかないですね。ほんとありません」
銀行員はひどく狼狽している。悪いことをしたと思い助け舟を出す。
「お酒、好きといえば好きです。といっても、安酒でいいんですが」
水を得た魚のように生き生きする銀行員さん。
ある仕組み預金の説明に入る。
「おカネが増えて困ることはないでしょう。
使いみちに困ったらビルのてっぺんからふりまけばいいんだから」
このひと、なんかやけくそになっていないか。
「これはかならずもうかります」とある商品をしきりにプッシュする。
「いまは円高だからほとんどリスクなんてありません。
毎年、〜万円、利子がはいるんですよ。これでいっぱいお酒がのめるじゃないですか」
リスクの説明はほとんどなかった。即決を迫られたので驚いた。
なにかあるとすぐにお酒の話である。
「この利子でお酒をのめばいいじゃないですか」
おまえ、おれを酒で殺すつもりか。
話がひと段落つく。銀行員が身の上話をはじめる。
おない年だというのである。おなじ76年生まれらしい。
「あの就職氷河期に銀行へ入るなんて優秀なんですね」
持ち上げてみる。すると、話す、話す。
いろいろたいへんだったらしい。
最初に就職した銀行で、こころを病んだ。2年で退職して海外逃亡。
ふたたびいまの銀行へ転職したという。
やはり最後は投資のすすめに結びつく。
「お客さんは他人という気がしないんです。
おない年ですし。ぜったいに損をしてもらいたくないんです。
私を信じてください。おカネを増やしていきましょうよ」
ごめんな。そんな大金ないんだほんとは。
帰宅してからすすめられた金融商品をネットで検索する。
幾人もの経済評論家が悪徳商品だと評していた。
リスクばかり大きくてメリットがぜんぜんない。
銀行がもうかるための商品ということである。
たしかにプロの意見を読むと、まったくもってそのとおりである。
それだけではなく、なんでもこの商品はかつて広告で不当表示を行ない、
公正取引委員会から排除勧告を受けたことがあるという。
まったくもう76年生まれの銀行員さんは(笑)。
これが話の落ちではない。
勝ち組と負け組がはっきりわかれたな、という感慨があったのである。
銀行員のかれは疑いもなく輝いていた。
口八丁手八丁ながらも完全なまでにやり手の銀行員であった。
見習いたいと思った。ひとをだます手口などほれぼれとするものがある。
いつまでも負けてはいられないと思う。
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