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「十二の世界を聞く」

「十二の世界を聞く」(山田太一/潮出版社)絶版

→対談集。残念なのは山田太一がたいがいは聞き手にまわっていること。
わたしとしては対談相手のことはどうでもよくて、山田太一のことを知りたいのだが。
わずかだが山田太一が自らの世界を告白したところを抜粋する。
まずは小此木啓吾との対談から。

小此木「私はむしろ山田さんのドラマを拝見して、
あれだけいろんな家族のことをなんかをお書きになるのは、
どういう経験をしてらっしゃるのかと思っていました。
見ていて、たぶんそうだなと実感できる話ばかりなものですから。
私はずっと診療をやっていますので、
その観察のなかから情報を整理していくんですが、
山田さんはどういう取材をされているんですか」
山田「私のドラマの人物がかかえている問題は、あまり病理的なものではなくて、
どちらかといえば凡庸な悩みが多いので、自分をそこに当てはめて、
なんとか内面に立ち入っているという感じです」(P31)


山田太一は、自分の経験からではなく、
もし自分だったらという観点からドラマの人間を造形する。

この対談集では宇宙学者、地質学者。歴史学者、哲学者といった、
そうそうたる顔ぶれが登場する。
だから、山田太一が聞き役にまわったというのも間違いではないが、
もうひとつ、これらの学者先生が山田ドラマなんて見ていないということもあったのだろう。
対談の接点が向こうの学問にしかない。
学者先生は山田ドラマを見るくらいだったら、専門書の1冊でも読みたいのであろう。
したがって、大半の対談は退屈だ。
唯一、おなじ業界人である倉本聡との対談がとびきりおもしろかった。
そこから一箇所を抜粋する。
倉本聡は北海道で富良野塾という私塾をやっており、俳優とシナリオ作家を育てている。
倉本は、塾生から起承転結ってなんですかと聞かれたら困ると述懐する。
というのも、倉本聡自身も起承転結がなんだかわからないらしい。

倉本「一回、僕に起承転結の講義をしてくれませんか」
山田「エヘヘヘッ、そんな意地悪を言わないでください。
結というのは、
その人間の世界観とか叙情のレベルとかなんかをみんな露呈しますでしょう。
こういうふうに世界を見ているんだとか、こういう人をいいと思ってるんだとか、
こういうつながりが素敵じゃないかっていうように、結のところでは、
その人間の時代のとらえ方とか、いろんなものが露呈するという気がするんですよ。
僕は、起承転までは非常に気持ちよく書けるんだけど、
結を書きたくなくなっちゃうんですよね」(P63)

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