風邪を引けば

バカのぶんざいで風邪を引いてしまった。
ついていたのは、ちょうどある疾病での通院日だったので、
ついでに風邪薬を処方してもらえたことである。
昨日のことだ。
思えば、医者から風邪薬をもらうなど20年ぶりではないか。
いつも市販薬でごまかしてきた。

引っ越すまえの住所の近所にある病院である。
転居したむねを伝えると医師は、
「なら、いまの住所の近くのところへかえても」
「いえ、やはり先生にお願いします」
わたしは答えた。
「先生がいいんです。うるさいことを言わないからです。
ああしろ、こうしろと。これからもお願いします」
対人恐怖症のようなことを書いているが、
このように医者の自尊心をくすぐるわたしは、
実のところ、なかなかのやり手なのかもしれない。
しかし、ウソを言ったわけではない。
この先生はわたしと相性がいいと思う。
おかしな健康指導をしたりしない。
まあ、好きなように生活して、
悪いところはお薬でなんとかしましょうという方針。
なかには「おれにまかせろ」という態度の医者もいるが、
この手の絶対君主的なお医者さんとは馬が合わない。

「酒をやめなさい。
喘息(ぜんそく)も頭痛も酒が原因じゃないかな」
こんなことを言う医者もかつていたが、
不愉快で仕方がなかったものである。
患者に努力を強いる医者は嫌いである。
患者が治らないのは、がんばっていないから。
こういう考えの医者も少なくないのである。
がんばってお医者さんになった人間は、
がんばればだれでもなんでもできるという
浅はかな思考から抜け出すことができないのかもしれない。

昨日処方してもらったのは「PL顆粒」という風邪薬。
のんでみたら実によく効くので驚いた。
むろん、風邪を治す薬ではない。
というのも、そもそも風邪を治す薬はないからである。
症状をやわらげるだけだ。
それでも、うれしいものである。
まさかこんなすぐ効果があるとは思わなかった。
突然、鼻づまりがよくなった。

さらに驚くべきことが生じたので書いておく。
喘息までよくなったのである。
そんなことは起こりようがないのである。
なぜなら「PL顆粒」を調べてみたら、
これはむしろ喘息を誘発しかねない薬なのだから。
そういえば喘息のことはこの医者にはうまく伝えていなかった。
だから、「PL顆粒」を処方したのだろう。
ところが、この風邪薬で喘息までよくなってしまう。
人間のからだの不思議である。
社会の不可思議から生まれたことわざに、
「風が吹けば桶屋が儲かる 」というものがある。
風が吹いたら、どうしてかめぐりまわって桶屋の利益になる。
大げさに言えば世界の神秘を説いたことわざである。
これをもじるならさしずめ、
「風邪を引けば喘息がよくなる」といったところか。

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