「話を聞く技術!」

「話を聞く技術!」(永江郎/新潮社)

→話すのが苦手なのである。だから、ひとの話を聞くしか道が残っていない。
なのに、聞くのも不得手なのだから。やむなくこのような実用書を入手したしだい。
実用書のはずが、残念ながらわたしには役立つところがほとんどなかった。
どういうことか。
わからないことがあったが、その回答および解決策が書かれていなかったということだ。
本書の内容はのほとんど有名人の自慢話なのでがっがりした。
わたしがわからないのはこういうことである。
話を聞く場合、話す側の都合と聞く側の都合、果たしてどちらが優先されるのか。
一部の例外をのぞいて、大多数の人間は話すことに快楽を感じるようである。
ならば、聞く側はじっとこらえて聞かなければならないのか。
話す側の都合を優先するならば、そういうことになる。
いっぽうで聞く側の都合を優先させていいならば、話す側の気分を害することも起こりうる。
相手が話したくないことを聞きたいと思ってしまう場合である。
自慢話や世間話はおもしろいものではない。
しかし、だからといって話し手のプライバシーを侵害してもいいのか。
もうひとつ。話し手が意図的にプライバシーを公開する場合がある。
聞き手は話し手とそこまで深く関与したくないとする。
このとき、それでも聞くべきなのかという問題である。
本書の回答者は、河合隼雄をのぞいて、聞く側の論理でしか語っていない。
いずれも取材のありかたを説いているに過ぎない。
要は自分のメリットしか考えていない利己主義者ばかりなのである。
どうやったら話し手から有益な情報が得られるか。これしか考えていない。
ビジネスだったらそれでいいのかもしれないが、人間関係はそれだけではないでしょう。
「話を聞く技術!」と名づけるならそちらにも対応してほしかった。
これでは「情報取得技術!」ではありませんか。

最後に、唯一話す側にも目を向けている河合隼雄のインタビューから抜粋する。

――心理療法で、クライアント(患者)の話を聞くことにはどんな意味がありますか。
河合「聞くことに始まって聞くことに終わる、と言ってもいいでしょうね。
相撲で言うでしょう? 「押さば押せ、引かば押せ」って。
それを真似してカウンセラーは、
「クライアントが話したら聞け、黙っていても聞け」って。
聞かないとだめですね。
――クライアントのすべてが話にあらわれる、ということですか。
河合「そういうことです。聞いていることによって出てくるんですよ。
帰りぎわに「こんなことを話すとは思いませんでした」と言う人が多い。
――話すことの重要性に気づかれたのはいつごろですか。
河合「早くからですね。いちばん初め、まだそういうことが分かっていないときは、
すぐ忠告したり助言したりしたわけです。
でもそんなことにはぜんぜん意味がない」
――意味ありませんか。
河合「ええ。言っても聞かないから。
そもそも忠告や助言で変わるような方は来られない。
誰かが忠告したり助言したりして、
それでも変わらない方が来られるわけですからね」
――(笑)。でも、新橋あたりで飲んでいるサラリーマンを見ると、
たいてい上司や先輩が若い者に忠告したり助言していますね。
河合「やっているでしょう? あれは上司の精神衛生に非常にいいんです。
――えっ。上司の精神衛生にですか。
河合「そう。聞いている方にはほとんど意味がありません。
あれは忠告を受けている方が上司の心を癒しているんです。
だから飲み代は上司や先輩が払うでしょう。カウンセリング料です、あれは」(P135)


このまえ生まれて初めて新橋でのんだけれども、周りの話がいかにもでおもしろかったな。
盗み聞きしながら、味わい深いものがあった。
「女はね男のレベルに応じて寄ってくるんだけど、おれのレベルは〜〜」
と大声で騒いでいるおっちゃんがいちばん印象的だった。
「いよっ、あんたが大将!」とこころのなかで呼びかけたものである。

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