「思い出トランプ」

「思い出トランプ」(向田邦子/新潮文庫)

→短編小説集。どれもいかにもうまい小説なのである。
いかにもいかにも玄人筋から絶賛されそうなうまい小説ばかりだ。
いや、素人からも称揚されている。
アマゾンの全24の感想を読んだが、けなしているのはひとつとしてなかった。
そういうところが、うますぎるところが、嫌いなのである。
読者は下手な小説を好きになってもよい。
うまい小説だからといってかならずしも好きになる必要はない。
読みながら思ったのは、ふーん、こういうのがうまいってほめられるんだろうな。
で、学校の先生も読め読めとすすめて、
感想文コンクールで入選するのも決まってこのような小説の感想。
だれからも嫌われない小説を書けるのは、著者がそういう人間だったからだろう。
早世したせいか、向田邦子の悪口を聞いた(読んだ)ことがない。
ふたたび、そういうところが嫌いなのである。
「あたしってうまいでしょう」というのが見えすぎるのは閉口するほかない。
乱暴なことを書いてしまえば、ここに収録された短編小説はすべておなじ構図である。
「現在→過去(回想)→現在」だ。
現在進行形で読者を引き込み、さらりと回想へいざない、最後に現在へ光を与えている。
……ダメだ。ぜんぜん批判になっていない。
改めて気づかされる。凡才に天才をおとしめることなどできるはずがないのである。
だが、どうしてだれも向田邦子を嫌わないのだろう。
向田邦子もその作品も、嫌われないところが嫌いである。

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