ことばの値段

いつだったか、古本屋で主人と客がこんな話をしていた。
本というのは売りようがない商品でして。店主は言うのである。
ほかの商品だったら安くすれば、そのぶん売れますが本だけはそうもいかず……。
ただでも、いらないと言われる本があるのですから。
地方から来たと思われる客はしきりに感心していた。
神保町、S書房で見聞したことである。

そうだよなと思う。
トマトが10円だったら買うけれども、クズ本はたとえ5円でもいらない。
思えば、いまいちばん激しいのはことばのデフレではないか。
むかしことばがありがたかったのは、ことばをみんなが使えるわけではなかったから。
文盲が少なからずいたということである。
だが、いまはどうだろう。
義務教育のおかげで読み書きが不自由なひとはめずらしいくらいでしょう。

だれもがことばを用いる。
インターネットの普及でいままでは読むだけだったひとも、書くほうに参入してきた。
ことばの価値は下がるばかりである。
現代は無料で読めることばにあふれている。
フリーペーパーの隆盛だけを言っているのではない。
このブログもそうである。どれほど多くのひとがブログをやっているのか。
ほとんどがただ働きである。おカネをもらわなくても、書きたいひとが大勢いるのだ。
かといって、どのブログも読まれているかといえばそうではない。
ただでも読みたくないことばにいまは満ちあふれているといえよう。

団塊世代の定年ラッシュが騒がれている。
ことばの価値はさらに下落するものと思われる。
定年になる。ひまだ。することがない。自分の人生はなんだったのか。
なかなかのものだったのではないかという自負もある。
ひとつ本として出版して世に問うてみよう。
こうなるはずである。自費出版業界がおおいににぎわうと予想する。
もはやことばは無料でも高くなりつつあるということか。
おカネを払ってまでことばを売りたいひとがいる。
このようなひとのためのビジネスも急増するのではないか。
自伝を書こう! みたいなカルチャー講座のことである。
講師は、決して安いとはいえないおカネを取って、顧客のことばを読んであげる。
どういうことか。こういうことである。
書店へ行く。書籍が積み上げられている。本には付録がついている。
現金500円! フリーペーパーを超える発想である。
本を手に取っただけでおカネがついてくるのだから。
しかし、条件がある。ハガキがセットになっているのである。
かならずこの本を読んで感想を書かなければならない!

たいへんな時代である。
こんな時代に作家をめざすのは、あたまがおかしいと思われてもふしぎはない。

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