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ふたりの求道者

インドアとアウトドアという明確な相違こそあれど、読書と旅行は似ている。
といってもベストセラー読書やツアー旅行のような趣味のことではない。
趣味をはるかに超えた、生きかたまで迫るときのことである。
人間は苦しいとき、悩んでいるとき、読書をする。
同様の状態にいるひとは、あるいは旅をしようかと思うもの。
どちらもなにかを発見したいのかもしれない。
どうにかしてこの窮屈な自分というトンネルを抜けだしたい。
なにかを見たい。だが、そのなにかはわからない。
ひとが「ハムレット」を読むとき、ほんとうに見たいのはこの芝居か。
真剣な旅行者が異国を訪れるとき、ほんとうに見たいのは名所旧跡なのか。
おそらくどちらも違うであろう。
海外文学作品を読破したいという欲求と、
世界一周旅行をしたいという欲望はおなじものではないか。

ここでこういう問いが生まれる。
海外文学作品を読破した人間と、世界各国を旅した人間はどちらが上か。
比べる対象ではないことは、むろん承知している。
なにを基準に上下を判定するのかも定かではない。
だが、たとえば、どちらが世界を、人間をより深く理解しているか。
相容れないものがあると思われる。
世界旅行者は、本なんていくら読んでも体験していないじゃないかと愚弄する。
読書家は、このえらそうな世界旅行者が、
かんたんなアメリカの歴史すらも知らぬことを嘲笑する。
一見するとおなじような求道者であるこのふたりは、それでも決定的に違うのだ。
旅行者は読書をすると頭の痛くなるタイプが多い。
読書家は動くのがめんどうだ。自分でチケットを手配するのから嫌気がさす。
観光名所へ到着してもあくびがとまらない。
こんなものガイドブックで見たからもういいと早々、観光地をあとにする。
旅行者は無知ゆえこの名所旧跡のいわれを知らない。
けれども、それゆえに感心する。飽くことなくその場に立ち尽くす。
畢竟(つまるところ)、このふたりは人間が異なるのである。
深い溝でもって断絶している。双方、絶対に理解しあえぬ。

ところが、なのである。両者は実によく似ている。
文学作品を多く読んでいる読書家というのは、ひとを食ったような態度を取る。
周囲はみんな馬鹿だとでもいわんばかりの傲慢さがある。
世界放浪をしている旅行者のほうも、まこと鼻持ちならない人間が少なくない。
ことさら経験の浅い旅行者を馬鹿にする。
ほうっておくと何時間でも旅の自慢話をしている。
あの国は行った、この国も行った、ただそれだけの自慢が実際である。
すなわち、どちらも虫が好かないのである。
ふたりに聞いてはならないことがある。

「で、なにか見つかりましたか?」

たくさん読書をしたのはわかりました。世界各国をまわったのは聞きました。
そもそもどうして読書・旅行をしようとしたのでしたっけ。
そうです。原点です。
それだけ読書をして、それだけ旅をして、なにか発見しましたか。
この問いに、おおかたの読書家、旅行者はことばを詰まらせるのではないか。
思わず絶句する。読書自慢、旅行自慢はできても、それだけである。なにもない。
いつしか原点を忘れてしまっている。
ふと気づくと原点の苦悩はとりあえず霧散している。
読書や旅行がまるっきり無意味だったわけではないのである。
しかし、これだという発見はなにもしていない。
ふふふ、やはり読書と旅行は似ていませんかね――。

COMMENT

セコハンの男 URL @
01/10 23:33
趣味の問題であっても. 似たような傾向がありますね。本を読む愉しみ、旅をする愉しみよりも、読むこと、旅をすること事態に意義がある、と。
いつしか、そこから得られる純粋な愉しみは失われ、その前後に収集した情報を重宝する人が見受けられます。
結果、分かりやすい本、分かりやすい旅を拒絶する。
例えば、遠藤周作が好きだと自信を持って言える人間を私は信頼します。
Yonda? URL @
01/11 21:33
セコハンの男さんへ. 

批評よりも、味わいの愉しみを重視すべしとのご意見。
まったくそのとおりだと思います。

遠藤周作も若いころは、意味不明な文章をいくつも書いていますよね。
あれがどうして狐狸庵先生になったのか。
売文のためという説明だけでは不十分なように思います。
セコハンの男 URL @
01/12 07:39
どうもです. まあ、狐狸庵先生に関しては自称なんでね(笑)売文の為であっても私は許容しますよ。
私自身も某広場ではエラソーな名前ですし(笑)口調もエラソーです(笑)

意味不明だとは思われませんが、Yonda?さんがおっしゃっているのは「発言の無責任さ」ということですかね。或は作家としての文章になっていないということでしょうか。
その辺を認めた上で、私は好きな作家の一人でした。(今読み返して愉しめるかどうかは分かりませんが・・・)
では、では、文字数も足りなくなってきたので、この辺で。

今後も、たまに覗かせて頂きます。
セコハンの男 URL @
01/12 08:52
. ああ、最初期の小難しいことを書いていた頃のことですかね。

でしたら、Yonda?さんが意味不明と言っていたことも納得出来ます。

確かに売文の為だけではないですね。要は、資質の問題だと考えますよ。

話すと長くなるんで、やめときます。すんません、取り違えてたかもしれませんので忘れてくださいな(笑)
Yonda? URL @
01/14 00:42
セコハンの男さんへ. 

いえ、あの、その、なんと申しましょうか。
遠藤周作は偉大な作家であります。
セコハンさんをそんなに夢中にさせたのですから。
ご覧になりましたか?
「本の山」には遠藤周作批判の記事がいくつかあります。
不愉快に思われたかもしれません。
あえてお見逃しくださったセコハンさんの寛大なおこころに感謝します。
ありがとうございます。








 

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