「フェンス」(オーガスト・ウィルソン/桑原文子訳/而立書房)
→戯曲。アメリカ産。1987年ピューリッツァー賞受賞作品。
オーガスト・ウィルソンは黒人劇作家。黒人をテーマにした作品を書いた。
この劇の主人公はトロイさん。53歳。黒人です。
前科一犯。殺人の罪です。刑務所へ15年入りました。
現在はゴミ収集の仕事をしています。
結婚しています。妻とは再婚です。子どもはふたり。
前妻の子と、いまの妻との子。どちらも息子です。
楽しみは給料日の金曜に酒をのむこと。
それから月曜まで10歳年下の妻のからだをなめまわすことです。
以上のようなトロイさんの生活を、かれの口から直接、聞いてみましょう。
「(ゆっくり、瞑想的に)お前……俺はできる限りのことをしてる。
毎週金曜にここに帰って来る。
袋いっぱいのジャガイモとバケツ一杯のラードを持ってな。
お前ら、みんな戸口に並んで、手のひらをつき出す。
俺はポケットからリント布を出して渡してやる。
俺の汗と血をお前たちにやるんだ。
俺にはもう涙はない。涙なんて出つくしたんだ。
夜になると俺たちは二階の部屋に行く……俺はお前の上に倒れこんで、
果てしなくお前の体を攻めまくる。
月曜の朝起きてみれば……テーブルの上には弁当がおいてある。
俺は家を出る。頑張りとおす。
なんとかつぎの金曜まで持ちこたえる力を見つけるんだ」(P55)
黒人ですよね。性欲がみなぎっている感じが、ちょっと怖くありませんか。
そうなのです。トロイさんは、ひとりでは満足できない。
一夫一妻では飽き足りません。愛人を作ります。のみならず、はらませる。
なんか動物みたいですね。
このあたりでトロイさんの息子、コーリーくんが前面へ出てきます。
コーリーくんは、フットボールの才能があるのです。
大学からスカウトに来ます。親の承諾が必要なのですね。
トロイさんは、ハンコを押さない。
そもそも字が読めないので、なんの書類だかわからなかったのかもしれませんが。
コーリーくんもさすがに怒ります。
「俺がパパより偉くなるのが怖い、それだけなんだ」(P76)
父子の喧嘩になります。
思えば、このトロイさんにも、父親と闘った過去がありました。
親父をぼこぼこにのして都会へ出てきたのがトロイさんなのです。
さて、トロイさんとコーリーくんの喧嘩はどうなるか。
コーリーくんはバットをもっています。
コーリー「さあ来い! ……さあ来い!」
コーリーはトロイめがけて再度バットを振る。当たらない。
トロイはじわじわコーリーに近寄る。
トロイ「お前は俺を殺すしかねえ! 俺に向かってそのバットをかまえる気だな。
俺を殺すっきゃねえんだ」
コーリーは木に押しつけられ、これ以上動けない。トロイは彼をあざける。
彼は頭を突き出し、ねらってくれというように差し出す。
トロイ「来い! かかって来い!」
コーリーはバットを振ることができない。トロイがバットをつかむ。
トロイ「そんじゃ、俺が教えてやろうじゃないか」
コーリーとトロイはバットの奪い合いをする。
その闘いは激しく、ふたりとも必死だ。最終的にはトロイのほうが強かった。
彼はバットをコーリーから奪い、振りおろそうとしてコーリーを見下ろして立つ。
トロイは自分を抑える。
トロイ「ほら、俺の家の近くから立ち退け」
コーリーは敗北に傷つき、立ち上がって、
ゆっくりと庭から出て路地へと歩いていく(P119)
リアルファイトですね。ガチンコというのでしょうか。
どういったら差別ではなくなるのか。問題があったら教えてください。
アメリカ人って怖いですね。黒人って野蛮ですね。前科者って恐ろしいですね。
とにもかくにもトロイさんは息子を追いだしたわけです。
ところが、トロイさん、そろそろ運も尽きたのでしょうか。
例の愛人は娘を出産するとすぐに死んでしまいます。
愛人の存在がばれて、妻からも嫌われます。
しかし、妻は夫の愛人の娘を育てることを了承します。
トロイさんは孤独です。息子は去り、妻からの信用もなくした。
友人もいつしか離れていきました。
8年後。トロイさんのお葬式です。
殺して終わりとは安易なような気もしますが、
うっかりしたことを言うとバットで殴られてしまうかもしれません。
ここでコーリーくんが戻ってきます。海兵隊に入り出世しています。
娘のレイネルちゃんも8歳になっています。
コーリーくんとレイネルちゃんが、お父さんのよく口ずさんでいた歌をうたいます。
異母兄妹の合唱です。美しいですね。じゃあ、このへんで、さようなら。
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