「革命終焉」(天龍源一郎・嶋田まき代・嶋田紋奈/辰巳出版)

→プロレスラー天龍源一郎は奥さまのまき代さんの作品だったんだなあ。
天龍を知らなければわけがわからない本だろうけれど、
大ファンだった当方としては涙が出るほど笑える裏話満載の本である。
天龍は本当にバカっていうか、生活能力ゼロというか、
損得計算をできない漢(おとこ)だったようである。
そしてそしてタバコとパチンコがなにより好きだったという、
まき代夫人は京都のでっかい土建屋のお嬢さんだったとは。
まき代夫人のお母さまはラウンジ(豪華クラブ)を経営していて、
まき代さんは天龍と見合い結婚するまえそこで働いていて、
当時で月収百万円以上あったとか、
天龍のギャラを知ってあたしより少ないの? と思ったとか金の話はおもしれえ。
天龍は男を気取るというか、とにかく金使いが荒いのは知っていたが、
あれは自分のギャラでまかなっていたわけではなく、
巡業中に奥さまが実家で稼いだ金をそうと知らせず渡していたとか美談すぎる。
とにかくまき代夫人がおもしろすぎる。
この奥さまがいなかったら天龍源一郎は大成することがなかったのは明白だろう。
嶋田一家で天龍源一郎という夢を創っていたんだなあ。
まき代さんは生活能力のない天龍に金を工面しつづける。

「それもこれも「天龍源一郎を一等賞の男にしたい」という私の願いからです。
私の中では「前後左右を考えないで、お金を使える」
というのが一等賞の男なんですよ。
馬場さんだって、ちゃんと考えてお金は使っていました。
もちろん天龍だって考えて使わなければならないんですが、
そこに私の変なこだわりがあるんです。
昔は「あんた、相撲の世界に入ることになって13歳で福井から出てきたとき、
何を持っていた? カバン一個でしょう?
だったら、何もかも失ったとしても一緒じゃない。稼いだときに全部使っちゃえ」
と夫を焚きつけておりました。今となっては反省しております(笑)」(P119)


天龍源一郎は男のなかのチョーかっこいい男だったが、
あれはまき代さんのアニムス(理想男性像)だったのかあ。
男は女を「女にする」のと同様、男は女に「男にされる」面がたぶんにあるのだろう。
いまの結婚はあいつの年収はいくらでこっちはいくらでとかみみっちすぎるぜ。
いい女と出逢えば、男はいい男になるのか。男を立てる女なんだなあ、まき代さん。
金銭感覚がおかしいとおもしろい人生を送れることを本書で学ぶ。
天龍がSWS(メガネスーパーのプロレス団体)に入ったころ、
ちょうどバブルということもあり大金が舞い込んできたらしい。
天龍はかっこいいバカだからその金をどう使うか。
またまた妻のまき代さんの述懐。

「それにしても、SWSに移ってお金を持った天龍はもう……ダメでしたね。
本当に計画性のない人だなと思いました。
銀座のお店に飲みに行って、1万円札を鷲掴みにしてバラまいたり、
喜んでいるホステスの胸元にお札を入れたり、
面識のないホステスにタクシー代として何万円もあげたりしていたようです。
その頃、ウチの弟がよく同行していたので、
それを一部始終目撃して「おかしいよ」って怒っていましたね。
そんな話を聞いても。
「別にいいじゃん、自分の身体を痛めて稼いだお金なんだし」
と言っている私もいました(笑)。
あの時期、私も株に手を出して、○千万も損してしまったこともあります。
この資産を少しでも増やそうと、下心を出してしまったんですよ(笑)。
もともと株は好きで、天龍がSWSに行く前から金額は少ないながら、
ちょっとやってはいたんです。
その頃は紋奈[娘]も小学校に行き始めて時間がありましたし、
SWSからお金が入ってきちゃったので、つい「注ぎ込んじゃえ!」と(笑)」(P118)


天龍源一郎と嶋田まき代は最高にして最強の夫婦だよ。
だれもあんたらには勝てねえって。
天龍の計画性のなさ、金銭感覚のおかしさは、
大ファンだから変な影響を受けているかもしれない。
わたしは天龍が全日本プロレスで革命を起こしたころからのファンだが、
あのころ天龍のギャラは1試合5万いかないくらいだったのか。
にもかかわらず、試合後はおなじ天龍同盟メンバーやマスコミ記者たちと
酒を求めて夜の町を彷徨(ほうこう)して大いに盛り上がり、
当日のギャラ以上に散財していたとは恐れ入る。
そりゃあ、おごられたらマスコミ記者たちも天龍を記事でほめて、
さらに全日本プロレスに客が入るからものすごい好循環ができていたのだろう。
社長の馬場さんもときに10万単位で天龍にお小遣い(飲み代)をあげていたのも、
経営者のマスコミ対策という以上に、
あるいは天龍の当時のおもしろさを理解していたのかもしれない。
天龍はマスコミに金を渡せば悪口を書かれないということを
計算してやっていたわけではなく、おそらく仲間意識から遊んでいたのだろうが、
当時ライバルだった(酒を飲まない)ジャンボ鶴田はおもしろくなかったことだろう。
マスコミは後輩の(敵対している)天龍の魅力ばかりアピールするのだから。
馬場さんだけではなく、奥さまのまき代さんも、
夫の遠征中は実家のラウンジで稼いで、天龍源一郎を男にすることに貢献していた。
天龍自身はといえば、どうしてこんなにお金を使っているのになくならないか、
さほど不思議に思わず、まあいっか、と計画性もなくやっていたのだから、
バカというか天才芸人というか。

しつこいが、男は女が創るもの。男は女が立てるもの。
プライベートの嶋田源一郎ってどんなお父さんだったのだろう。
お嬢さんである紋奈さんは子どものころの想い出を語る。
あの天龍がお嬢さんの運動会や授業参観に行くこともあったらしい。

「……学校にヤ○ザみたいな柄シャツを着てきちゃうんですけどね(笑)。
どう見ても、あれは普通のシャツじゃない。カタギじゃないですよ。
父は芸能人のようにプライベートで帽子を深く被って変装するといった細工はしません。
もう、そのまま「ザ・天龍源一郎」という感じで立っている。
でも、あれを選んでいるのは本人ではなく母ですから。
「こんなシャツ、よく買うな~。捕まるで!」
というようなシャツをあえて選び抜いて買ってくるんです(笑)。
しかし、あのセンスは独特ですよね。
巷(ちまた)では「天龍ファッション」と言われたりしますが、
私は陰で「まき代チョイス」と呼んでおります。
私が大きくなってから母と一緒に父の服を買いに行くと、よく喧嘩になりますよ。
私が「その柄はうるさいよ」と注意しても、
母は「明るいほうがいいじゃん。派手なほうが気分も晴れるし」
と言って、まったく聞く耳を持ちません(笑)」(P96)


プロレスは泥臭いゲスな噂話が最高におもしろいよねえ。
女子プロレスラーのNを女にしたのは冬木だとか、前田もやったとか、
橋本も食った自慢をしていたとか。
冬木は死ぬまえに橋本とプロレス的にからんだが、
冬木の死後に未亡人が橋本と不倫関係でくっついちゃったとか「ザ・欲望」(笑)。
ああ、本書で知ったが理不尽大王の冬木はむかし吃音だったらしい。
噂話をつづけると、北朝鮮でNとブル中野、飯塚と豊田が一戦を交えたとか本当かどうか。
健介と北斗が北朝鮮でっていうのは本人たちも告白しているからガチでしょう?
猪木さんは周囲に奇縁をつくりまわるというか、神さまみたいな人だよなあ。
むろん単純ないい神さまではなく、どこか邪(よこしま)な神さま。
わたしは猪木や馬場よりも、ふたりに勝った天龍源一郎が好きなのではあるが。
天龍もLLPWの社長と、なんとかかんとかとか、耳にした記憶があるような、ないような。
嶋田家はおもしろすぎて、天龍はお嬢さんに自身の女関係まですべて話しているという。
中学時代は不登校も経験したレボリューションな嶋田紋奈さんいわく――。
紋奈さんは「天龍プロジェクト」の代表でもある。

「そんな父によく言われているのが
「俺のほうが確実に先に死ぬんだから言っておくけど、
俺が死んだときに絶対に好き勝手なことを言う奴がいると思う。
だけど、お前が俺の真実を全部、後世へと伝えていく人間になってくれ。
俺が誰と付き合っていたとか、どんなお姉ちゃんがいたとか、
ここに住んでいたとか、全部お前に話しておくから」と。
仕事への行き帰りの車の中などで、そんな話を全部教わっています。
父と息子ではなく、父と娘の関係ではかなり珍しいですよね?
普通の娘さんならば、父親の女性関係、浮気の話は
「お母さんというものがありながら!」と激しく怒るんでしょうが、私は全然平気です。
むしろ何でも話してくれるのが嬉しいぐらいですね。
確かに母は苦労してきたと思いますが、やはり父は人に見られる商売ですし、
実際には家に帰ってきて家族も大事にしてくれていたわけですから。
「男なんて、そんなものだろう」、
「レスラーなんて、みんな悪いことしているんだろう」ぐらいの感覚ですよ」(P209)


人気商売の男は浮気なんて当たり前という常識がいまは非常識になっている。
紋奈ちゃんは大好きだったカシンとやったのかなあ、うふっ。
紋奈代表もおもしろすぎるというか、WAR時代のグッズ販売が濡れ手に粟だったことを、
そこまでばらしていいのかというレベルで白状している。
おいおい、グーパンチうちわや天龍目覚まし時計を買った、こっちの気持にもなれ(笑)。
天龍の盟友・阿修羅原はだらしない天龍を百倍くらいダメにしたいい男だったようだ。
原の借金っていくらだったんだ? 原はどんなふうに金を使ったんだよ。
阿修羅原の引退試合を見て涙したこちらとしては、
その破天荒ぶりが気になって仕方がない。
ヤクザとか大学教授や医者、弁護士なんかよりよっぽどかっこいいよなあ。
銀行員なんかよりチンピラのほうがかっこいいという当方の価値観の乱れは天龍ゆえだ。

ほのぼのとした話も紹介しておこう。
京都の大手土建屋の、パチンコとタバコが好きな商業高校出身の、
しかしとびきり美しいお嬢さんとお見合い結婚した天龍は、
新婚時代の想い出を語る。亭主関白というか、ひどい男なんだが、天龍はいい。
ふむふむ、結婚する幸せはこういうところにあるのか。
天龍源一郎の言葉である。

「結婚は、食事の面でも大きく変化がありました。
一番最初にまき代が料理を作ってくれたときのことは憶えています。
何を作ってくれたかは忘れてしまったんですが、俺がポツリと発した言葉が
「どうしたら、こんなマズい料理が作れるの?」でした。
彼女は「えっ……」という表情をしたまま固まっていましたね。
それから彼女は必死に料理を勉強したみたいで、
いろいろなメニューを覚えては作れるようになってくれました。
最初に俺が味見して、厳しい言葉でカマしてやるんですよ(笑)。
今でもたまに作ってくれますが、
まき代のニンニクの味がする鶏のカラ揚げが大好きでした。
50~60個も作ったカラ揚げをテーブルに置いて、
ビールを飲みながらムシャムシャと食べて、それがなんだか幸せでしたね」(P44)


嫁さんにカラ揚げをがんがん作ってもらいながらビールを飲むというのは、
たしかにそう悪いもんではなさそうだなあ。
自分はふんぞりかえって女から料理を作ってもらうとなんか嬉しいよね。
天龍源一郎からは強い影響を受けているんだけど、
ロレックスの時計をはめたいとか、ベンツに乗りたいとか、
銀座のクラブで札束をバラ撒きたいとか、
そういう一流コンプレックスは引き継いでいない。
パチンコとタバコが好きなきっぷがいいおねえちゃんとは一生縁がなさそうだし。
しかし、計画性のなさと北向き(ひねくれ)加減、浪花節みたいなものは継承している。
この本で知ったが、天龍源一郎は営業をしたことがないという。
全日本を辞めたのも社長の武藤のやりやすさのことを考えたからで、
馬場元子は給料もそのままでという方針で武藤に引き継いだらしい。
全日本もWJもハッスルも、営業はしていないらしく、依頼がまずあったらしい。
大物プロレスラーって馬場、鶴田、藤波以外、みんな山っ気があるというか、
計算しないで金を使っちゃうタイプが多いような気がする。見栄っ張りというか。
だが、奥さんがしっかりとした経済感覚を持っていると、なんとか持ち直すというか。
天龍源一郎もまた金銭感覚が狂っていたが、
まき代夫人が少なくとも天龍よりもましだったからうまくいったのだろう。
しかし、損得や計画性を無視したほうがおもしろい人生を送れる可能性が高い
――天龍源一郎から学んだことである。
本書の最後で天龍は自分が見えていないひでえことを言っているが、
嶋田家の三人はおもしろい。

「俺もよく金銭感覚がぶっ飛んでいるなどと言われますが、
さらにその上を行くのが女房のまき代なんです。
紋奈には、くれぐれも真似しないで欲しいものですね(笑)。
結婚してもう33年が過ぎますが、今でも俺は
「天龍源一郎の嫁は、世界中でまき代にしか務まらない」と思っていますよ」(P242)


WARの経理をやっていたのはまき代さんで、あれは嶋田家の持ち出しだったとのこと。
天龍が新日本で高額のギャラを稼いできて、それをWAR運営にまわすという。
それを考えると、たしかに嶋田まき代さんの金銭感覚もぶっ飛んでいる。
いまはなきプロレス団体WARは大好きで、よく通ったものである。
天龍いわくWARは――。

「ただ、WARが大きな団体と違うのは、「お客さん第一」で、お客さんが喜べば、
もう何でもアリと腹をくくっていた部分です。それはSWSの頃に
「大規模だけど、楽しくないプロレス」
というものをファンに提供してしまった反省と後悔からですよ。
だから、WARでは「とりあえず楽しければそれでいいや」
という点を優先的に考えました」(P134)

「[WARは]こうなったら好きなことをやってやろうという開き直りみたいなものです」(P148)


マイナスにマイナスをかけるとでっかいプラスになるようなことが、
男女関係や人生ではままあるということを実例としておもしろおかしく学んだ。
おれが大好きだった天龍源一郎の陰のプロデューサーはまき代夫人だったのかあ。
パチンコとタバコが好きな商業高校出身の京都のお嬢さまに、
おれは一杯食わされたというか、いい思いをさせていただいたことをいまごろ知る。
生活能力のないだらしない嶋田源一郎を、
「風雲昇り龍」ミスター・プロレス天龍源一郎に仕立て上げた、まき代夫人、お見事でした。