親愛なるあいどん氏のドラマファン掲示板で読んだ情報がふとあたまをよぎった。
尊敬する山田太一先生がイラン映画「別離」をほめていたとか。
出先の新宿でチケット屋を10件近くまわり、ようやく1500円の前売り券をゲット。
銀座の次に東京で嫌いな街、渋谷におもむく。
鑑賞後、帰宅して調べなおす。

なんと人々は一つの出来事をそれぞればらばらに生きてしまうのだろう。
そして物語が終わっても人生は終わらない。
 
山田太一 (脚本家・小説家)

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これはただの感想で、べつにほめていないよね? ああ、やられたかと思う。
読み間違えたのはわたしのほうであった。
非常に評判の高いイラン映画「別離」の頼りにならない感想を書く。
福田恆存氏にかぶれたことのあるわたしは映画が○○だから、
どうか評価は信用しないでください。

うんざりしながら見ていたが、鑑賞後にげんなりした気分になった。
どいつもこいつも自分の権利ばかり主張して、他人のことをまったく思いやらないからである。
そして、それがまさしくわたしの姿と似通っているからやりきれないのだ。
恥ずかしい告白をすると、いつだったか駅のキヨスクでこんな経験をしたことがある。
漫画雑誌を買いたくて順番を待っていた。
わたしの番が来たと思ったとき、売り子さんは順番を無視するのである。
販売員のおばさんが優先したほうのおじさんは裕福な身なりをしていた。
貧乏くさい格好のわたしは思いがけず大きな声を出してしまった。
「わたしのほうが先です!」
ハイハイとおばさんは応じてくれたが、とても情けない思いをした。
たかだが10秒、20秒にどうしてそうこだわる?
なんて自分は被害妄想が強いんだ!

イラン映画「別離」に登場する面々も被害妄想が強いのである。
著名な精神科医の春日武彦先生が、
人間の正体を「こだわり・プライド・被害妄想」と見切っていたが、まったくそうである。
日本人だけではなくイラン人もおなじであった。
国籍で人間はそう変わらないのだろう。どいつもこいつも「こだわり・プライド・被害妄想」。
イラン映画「別離」に登場する大人たちも「こだわり・プライド・被害妄想」が異常に強い。

映画の事件ともいうべきものは、家政婦の流産である。
雇い主が口論ののちに家政婦を押したのだが、
それが流産の原因かどうかが問われている。
雇い主のひげもじゃイラン人が素敵なのである。
まったく反省をしない。自分の行為を正当だと信じている。
それどころか被害者意識満々で、
ボケた父を虐待した(と妄想?し)家政婦を逆に訴えるしまつである。
自分が胎児を殺してしまったのかも……などと罪悪感を抱くことはつゆないのだ。
家政婦も被害者意識しかない。
自分の都合のためになら、職務を放棄することにさらさら痛痒を感じていない。
これが温厚な人格者の山田太一先生くらいになれば、
「みなさん、自責の念を持ちましょう」などと言えるのだろうが、
至らないわたしは「どいつもこいつもおれみたいだな」とげんなりしてしまう。

おまえらもっとゆとりを持てよ、と思ってしまった。ゆとりだよゆとり。
それから酒でものんで水に流せばいいじゃないか(イランは禁酒国!)。
映画で唯一笑えたのは、被害妄想爆裂のイラン人失業者である。
妻が流産してしまったことを、これでもかと過大に被害妄想に仕立て上げるのである。
「おれには失うものがない!」と叫びながら、
みずからが加害者と信じるところの富裕層を執念深く攻撃する貧民の
「こだわり・プライド・被害妄想」には自分を見ているようで笑いがとまらなかった。
ちなみに映画館で笑っていたのはわたしだけである。
だれかついてきてくれると期待したがシニア富裕層ばかりの観客では無理だった。

映画で繰り返される基本の感情は――。
おれを舐めるなよ! あなたのせいよ! 自分は悪くない! おまえはバカだ!
大人たちはみなみなこの世界の住人なのである。
目にものを見せてやる! おまえのせいだ! おれは悪くない!
結果として「別離」にいたる。全員が不幸になる。
救いはどこにもない。感動も見当たらない。
みなが少しずつ他人の立場を思いやったら、これほどギスギスはしないのである。
しかし、わたしはどこぞの先生ではないから偉そうに意見できない。
自分もまあ、こんなものだろうと苦笑するしかない。

要らん映画、いやイラン名作映画「別離」から学んだこと。
・ひげもじゃのイラン人を怒らせると半端ねえぞ。
・育ちの悪い貧乏人はアグレッシブだ。
・イランの貧民窟はすげえな。
・金持は人として汚い。
・子供は嘘をつくことで汚い大人になる。
・「子はかすがい」ではない。
・悪いのはおまえで、おれは絶対に悪くない。
・映画宣伝文の「衝撃の結末」は信じてはならない。
・山田太一先生は善人。
・お酒は必要悪。
・ボケたら勝ち。
・女子供(おんなこども)は正義。
・「子役は監督の娘」からわかるよう、どこの国もコネは強い。
・ゆとりを持とう。
・でも人間はどうしようもなく「こだわり・プライド・被害妄想」。
・人は幸福よりもあえて不幸を選択するものだ。

ふむ、なかなかの映画でありました。ぜひぜひご覧ください。