創作にはメッセージが必要とされているらしいのだが――。
愚かで怠惰、嫌われものの筆者に、
世間様に物申すようなことなどあるわけがないではないか。
とはいえ、強いて迫られれば、ひとつないわけではない。
「生きていたらいい」である。
痴漢や盗撮で捕まっても、経営失敗で破産しようが、
人格破綻者で世間のつまはじきものだとしても、
酒びたりの人間のクズであろうとも、「生きていたらいい」と思う。
生きているというのは、ただそれだけで価値のあることだと思いたい。

(参考)「目の前で見た人の死の瞬間を教えて」
http://guideline.livedoor.biz/archives/50467592.html
今月は人生の正念場という気がする。
がんばるのは苦手で、そのうえ人間は無力だという諦観もあるが、
今月ばかりは腹の底から気合を入れてがんばりたいと思う。
人間てえのはがんばるしかない健気な生き物だぁな。
書物の感想はみなみな来月に延期予定。

3月18日に天龍源一郎と初代タイガーマスクのシングルが後楽園であるね。
5月には山田太一さんのお芝居「沈黙亭のあかり」が新宿である。
これらを目のまえの人参としてぶらさげ2月を完全燃焼したい。
人間ではなく馬や鹿のようなバカヂカラを出してみよう。
天よ、願わくば、われに火事場のバカヂカラを!
ひさびさの禁酒。むかしは週に二度は禁酒していたが、いまは……。
できたら週に一度くらいは禁酒したいのだが、それもなかなか。
もう通常人が一生でのむ倍以上の酒をのんでいると思う。
先日再読した宮本輝の小説に「酒に酔って決断したことでろくなことはない」(大意)とあった。
でも、酒にでも酔わなきゃできないことっていっぱいあるよね(かわいく)♪

テレビの「ポニョ」を15分だけ見て消す。
テレビはいけないね。ただだから元を取ろうという気にならない。
映画なら1800円ぶんの元を取ろうと画面に集中する。
舞台なら5000円ぶんのものを摂取しようとさらにハッスルする。
払った金額に比例して味覚も向上するから、高級レストランの存在意義があるのかな。
おカネを払うということは、行為自体にぞんがい意味があるのかもしれない。
カウンセリングだって1時間で1万円近くの料金を支払うから治るのであって。
占いも高額料金を支払うから、ありがたみが増すのであろう。
新興宗教なんかは、その典型だと思う。支払う金額が高ければ高いほどよい。

わたしはとにかく安いのが好きなのね。
ユニクロ、ブックオフ、千円(髪)カットの常連だから。いけない、いけない。
*作品中の「カチカチ山」は、河口湖近くにある観光スポットで、
富士山がきれいに見えることで知られています。

<人物>
荒川孝行(42)会社員
荒川心太郎(12)その息子
荒川豊(66)その父親
荒川節子(55)豊の妻
ジャネット(24)イギリス人女性
部下(26)男性
母親(33)
マスター(52)
外国人AB

○公団アパート・玄関
スーツ姿の荒川孝行(42)と部下(26)が母親(33)に土下座しようと身をかがめる。
母親「土下座なんてやめてください」
孝行「非はこちら側にあります。どうにかお許しいただくほかなく」
母親「もう少しで溺れ死ぬところだったんですよ。どう責任を取ってくれるんですか」
玄関脇に玩具「おふろで世界一周」。
母親「あんた、子どもいるの?」
孝行「おります」
母親「だったら、わかるでしょう。自分の子どもが死にそうになったらどう思うか」
孝行「はい、まったく」
母親「おたくの会社の玩具が原因」
孝行「はい」
母親「どう責任を取ってくれるのか」
部下「お言葉ですが、使用上の注意を守ってくだされば決してこんなことには」
孝行「やめないか。こちらのお子さんは悪くない。悪いのは私たちだ」
母親「――(どうだか)」
孝行「むしろ、お子さんの将来が楽しみです。
工夫して遊ぶことを知っている。自分で新しい遊びを創造することができる」
母親「おだてたって」
孝行「違います。本気でそう思っています。
将来有望なお子さんに、わが社の玩具で遊んでいただけて光栄なくらいです」
母親「そんなこと」
孝行「このたびは申し訳ありませんでした」
孝行は深々と一礼。続いて部下も。

○立ち飲み屋(夜)
孝行と部下が並んで生ビールを飲む。
部下「電話の感じだともっと揉めるかと思いましたけれど」
孝行「あのお母さんも悪気はないんだ」
部下「さすが課長だなって。僕も結婚すると変わるのかな。守るべき家族がいる」
孝行「家族、か――」
部下「息子さん、いくつでしたっけ」
孝行「小学六年生」

○進学塾・教室(夜)
教壇に講師。生徒はみな小テストを解く。
そのうちの一人が荒川心太郎(12)。
孝行の声「かわいいのは小さいころだな。
正直、いまは何を考えているのかさっぱり」

○立ち飲み屋(夜)
部下「男同士、話したりしないんですか?」
孝行「ないね。それより、いま――」
部下「どうかしましたか」
孝行「いや、いいんだ。どうかな、もう一軒」
部下「その、明日は彼女と、早くから」
孝行「そうか。ならいいや」
部下「課長も明日は休めるんでしょう」
孝行「ああ」
部下「たまには家族サービスなんて」

○走る電車(ホリデー快速河口湖1号)

○同・中
行楽に向かう乗客で騒がしい。孝行が着席。別の車両に心太郎が座る。
父子はお互いの存在に気づいていない。

○河口湖・俯瞰(ふかん)
空は曇っている。富士山は見えない。

○土産物屋・中
ヒッピー風の欧米系外国人旅行者、男性二人組が店内を物色。
富士山のキーホルダーに目をつける。
二人はレジのそばに座る荒川豊(66)に話しかける。
外国人A「タカイ。ディスカウント」
豊「(腕を組みながら)ノー」
外国人B「(キーホルダーを二つ取り)ツー、ディスカウント(二つ買うから安くしろ)」
豊「(首を振り)ノー」
外国人A「ホワイ?」
豊「ノー(と立ち上がる)」
A、Bは「ノーノー」と豊の口真似。二人は豊をからかいながら店を出る。
豊「バカヤロウ」
拍手する音。ジャネット(24)である。バックパッカー風ながら小奇麗な格好。
ジャネット「サムライ!」
豊「サ、サンキュー」
ジャネット「レイク・カワグチコ?」

○同・表
豊は身振り手振りで教えてやる。
ジャネット「アリガトウ(と去る)」
だらしなく手を振る豊を見ているものがいる。荒川節子(55)である。
節子「デレデレしちゃって」
豊「(慌てて)人に親切にするのは(当たり前)」
節子「ノー、ノー」
豊「あれは(見ていたのか)」
節子「お客さんあっての商売なんですからね。
これからもあんなことがあると困ります」
豊「こっちだってがんばってるじゃないか。英語だって勉強しているし。
おまえね、そんなガミガミ言うならね」
節子「出て行きますか? 出て行くのはそちら。
何回でも言わせていただきますが、十年前転がり込んできたのはあなたのほう」
豊「人の弱みにつけこんで」
節子「息子さんのところへ行きますか。昨日、電話があったのはそのこと?」
豊「いや」
節子「どうしますか?」
豊「悪かった。反省している(と頭を下げる)」
節子「あら、孝行さん」
孝行が立っている。
孝行「(気まずく)フフ、こんちは」
豊「(気まずく)おまえね、来る前に電話一つできないのか。
近々、話があるって、それだけで。今日来るなんてひと言も」
孝行「急に身体が空いたんだ」
豊「こっちにだって予定というものがね」
節子「わざわざ実の息子さんが訪ねてきてくれたというのにこの態度はひどいわね」
孝行「いえ。急で申し訳ありません。
節子さんにもご迷惑をおかけして(と一礼する)」
節子「何よ、水臭いじゃないの」
心太郎が節子の後ろに立っている。
孝行「どうして(心太郎が)?」
節子「(心太郎に気づかず)はあ?」
心太郎「お父さんこそ、どうしてここに?」
孝行「大人には色いろと事情があるんだ」
心太郎「僕はおじいちゃんの顔が急に見たくなって」
豊「そうか(嬉しい)」
孝行「何それ。俺には事前に電話をしないかって怒っていたのに」
豊「おまえは大人気ないことを言うね」
節子「まあまあ。今日はいったいどういう日なんでしょう。
どうぞ上がって、上がって」

○同・奥
店の奥が住居になっている。畳部屋。心太郎、孝行、豊が座る。気詰まり。
孝行「心太郎、どうした?」
豊「(孝行へ)おまえこそ、何かあったか?」
心太郎「ううん。大したことじゃなくて」
孝行「俺も、まあ、その」
心太郎「僕、いないほうがいい?」
孝行「いや、俺、ちょっと湖のほうを散歩してこようかな」
豊「親子して何を。行くなら(と立つ)」
心太郎「え?」
孝行「うん?」
豊「三人で行こう。さあ、立った」

○河口湖・湖畔
心太郎が豊の手を引く。
心太郎「お父さん、待ってよ」
小走りの孝行が立ち止まる。
孝行「こういうところ久しぶり。
(遊覧船を指し)ねえ、あれ乗りましょうよ。お金、出しますから」
豊「当たり前だ」
孝行「切符、切符、切符(と走る)」

○遊覧船・アンソレイユ号・中
孝行、心太郎、豊が入ってくる。
孝行「おっと、ビールがあるや。おじいちゃん、飲む?」
豊「金は出さん」
孝行「わかってます。これはどうやって注文するのか。先に席を取っておいて下さい」
心太郎、豊は二階席へ上がる。

○同・二階席(デッキ)
豊「いつもああなのか(孝行が)?」
心太郎「うん?」
豊「浮かれている」
心太郎「本当(と苦笑)」
豊「お母さんは元気か?」
心太郎「(ためらい)うん」
豊「どうした?」
心太郎「いえ」
豊「何かあったか?」
心太郎「ううん」
豊「大きくなった」
心太郎「逢うたびに言う」
豊「(ふざけて)彼女でも、できたか?」
心太郎「うん」
豊「え? 彼女、いるのか?」
心太郎「振られた」
豊「え?」
心太郎「できたけれど、すぐに振られた」
豊「そうか」
心太郎「どうして女の子って、つきあい始めると色いろ命令してくるんだろう。
ああしなさい、こうしなさい。わけがわからない」
豊「そうか(含み笑い)」
心太郎「おかしい?」
豊「いや、本質的な問題かもしれない。女は男にとって永遠の謎だ。女はわからん」
心太郎「そうなんだ」
豊「それで来たのか。おじいちゃんに相談したくなったか」
心太郎「ううん」
豊「どうした? 何かあったか? 心太郎も孝行も突然来てわけがわからない」
孝行がビールジョッキを二つ持ち、階段を上がってくる。
心太郎「(小声で)このことお父さんには秘密」
豊「(小声で)わかった」
孝行「地ビールだって。いいね。幸福。おじいちゃんと二人で昼からビール。
心太郎が大人になったら三人で飲むのが楽しみだ」
汽笛が鳴り、船が出港する。

○河口湖・俯瞰
遊覧船が湖面を悠々と遊泳する。

○遊覧船・アンソレイユ号・二階席
ジャネットが湖面を見つめる。
心太郎、孝行、豊はそれぞれの思い。唱歌「富士山」が流れる。
録音テープ「右手をご覧下さい。富士山が見えます。富士山は日本を代表する山で」
ところが、富士山は雲に隠れている。
孝行「(素っ頓狂な声で)見えないじゃないの。富士山、見えない。嘘つかない」
孝行の声でデッキの乗客がどっと沸く。「そうだ、そうだ」。一体感が生まれる。
ジャネットは何が起こったかわからず周囲を見回す。豊と目が合う。
ジャネット「(あのときの)サムライ!」
豊はジャネットに近づく。以下、英語の会話は日本語訳を字幕で出す。
ジャネット「(英語で)何が起こったの?」
豊「(拙い英語で)アナウンスでは富士山が見えると言う。しかし、実際は見えません」
ジャネット「(英語で)そういうこと(と笑う)」
豊「(英語で)ご旅行ですか?」
ジャネット「(英語で)はい」
豊「(英語で)どちらから?」
ジャネット「(英語で)イギリスです」
心太郎「おじいちゃん、やるう」
孝行「本当。意外だな」
豊「(二人を指し、英語で)息子、孫」
孝行と心太郎は一礼する。

○河口湖・船着場
豊が手を振る。ジャネットが去る。
豊「(英語で)よいご旅行を」
ジャネット「アリガトウ」
心太郎と孝行は豊の一歩後ろに立つ。
豊「世界一周旅行をしているのだとか」
孝行「へえ、女一人で。すごいな。いや、いまはどこも女のほうが強いのかもね」
心太郎「おじいちゃんもすごい。英語」
孝行「見直したよ」
豊「あれくらい(満更でもない)。さて、今度はお二人さんと日本語でじっくり話そう」

○河口湖・湖畔
心太郎、孝行、豊が湖に面したベンチに並んで座っている。孝行が真ん中。
孝行「静かだな。心が落ち着く」
豊「嘘だ。心ここにあらずだろう」
孝行「ひどいな」
豊「父親が息子の気持をわからんでどうする」
心太郎「――」
孝行「フフ、そうだね」
豊「わかっている」
孝行「――わかるか」
豊「わかる」
孝行「息子にも父親の気持がわかる」
心太郎「――」
豊「そうか」
孝行「お父さんにあやまりたいんだ」
豊「うん?」
孝行「十年前、お父さんが離婚したとき、俺、反対したでしょう。
何もこんな齢になってから別れることはないって」
豊「あったな」
孝行「あのときは何もわかってなかった」
豊「そうか」
孝行「離婚なんてするなよって思った」
心太郎「――」
孝行「一度結婚したんなら、最後まで寄り添えよって思った」
豊「だいぶ厳しいことを言われた」
孝行「俺、いま(急に涙声で)ちょっと、じゃない、かなり参っちゃって。
もうどうしようもなくて(と顔を覆う)」
心太郎「お父さん(と孝行を見る)」
孝行「(鋭く)見るな!」
心太郎「――(顔を伏せる)」
豊「辛いな」
孝行「お父さんだったら、わかってくれるかもしれないって」
豊「そうか」
孝行「いま別居してるんだ。心太郎はお母さん子だから俺が出て行った。
ウィークリーマンションを借りた。もう一ヶ月になる」
心太郎「お父さん」
孝行「息子にどっちが好きかなんて怖くて聞けない」
豊「うん」
孝行「人前で口にするのはこれが初めてだが」
心太郎「お父さん」
孝行「――離婚を考えている」
豊「うん」
孝行「まだ心太郎に言うつもりはなかった。
両親に離婚されると子どもは辛い。まるで自分の存在を否定されたような気がする」
心太郎「――」
豊「そうか」
孝行「しかし、顔を合わせたら言い争いが始まる。心の休まるときがない」
豊「うん」
孝行「(心太郎へ)お母さんが悪いわけじゃない。
お母さんのことをわかってやれないお父さんが悪いんだと思う」
心太郎「お父さん」
孝行「心太郎も親がいがみあっているのを見るのは辛いだろう」
心太郎「――」
孝行「心太郎、お父さんとお母さん、別れちゃダメかな」
心太郎「――」
孝行「ダメだよな」
心太郎「わかるよ。お母さん、口うるさいところある」
孝行「いい」
心太郎「お父さんにはお父さんの人生がある。だから、お父さんが決めたらいいと思う」
孝行「(やさしく)心太郎(と見る)」
心太郎「うん?」
孝行「いつの間にか大人になったな」
心太郎「ううん(と泣いてしまう)」
孝行「俺なんかよりよほど立派だ」
豊「心太郎にも色いろある」
孝行「うん?」
心太郎「おじいちゃん(言わない約束でしょ)」
豊「ああ」
心太郎「――(涙を手でこする)」
孝行「心太郎は大人だ。俺は両親が離婚しようとするのを」
豊「孝行(と押しとどめる)」
孝行「俺の都合だけで反対した」
豊「それでいい――。(空を見て)雨になるな」
孝行「わかるんだ」
豊「ああ」
孝行「俺、どうしたらいい?」
豊「うん?」
孝行「お父さんは離婚してよかった?」
豊「――」
孝行「別れなきゃ、いまの人と逢えなかった。節子さんと逢えなかった」
豊「そういうことだな」
孝行「いま幸せ?」
豊「わからん」
孝行「――わからないか」
豊「ああ、わからん。縁があったということだからな」
孝行「離婚したお父さんに相談に来たってことは、別れたいと言ってるようなものか」
豊「そうでもない。おまえは偉い」
孝行「うん?」
豊「こっちは離婚するとき、まったく子どものことなど考えなかった」
孝行「あのとき俺はもういい大人だったし」
豊「おまえを見ていて、父親とはこうあるべきだと思った」
孝行「からかわないで」
豊「あまりいい父親ではなかったかもしれない」
孝行「そんなことない」
豊「心太郎。お父さんが好きか?」
心太郎「うん」
豊「お母さんが好きか?」
心太郎「うん」
豊「それでいい」
心太郎「――はい」
豊「しかし、よくない。息子が相談に来てもアドバイスひとつできない」
孝行「いいよ」
豊「わからない」
孝行「フウ、わかりませんか」
豊「明日は晴れるそうだ」
孝行「そう」
豊「富士山が見えるだろう」
男三人の背中は、どこか似通っている。

○喫茶店・中
マスター(52)が豊、孝行、心太郎にそれぞれコーヒーを出す。
マスター「もしかして、こちら」
豊「そう、息子」
孝行「どうも。父がお世話になってるようで」
豊「こいつ、東京でバリバリやってる。一流企業。親父には似なかった」
マスター「自慢の息子さんか」
孝行「いえ、そんな。これ、息子です」
マスター「(豊に)へえ、お孫さん」
豊「私、おじいちゃん」
孝行「なかなか優秀で、中学はかなりレベルの高いところに行けそうなんです」
心太郎「お父さん(やめて)」
孝行「(自分を指し)親バカ」
豊「(自分を指し)親バカ」
マスター「みんな自分の子どもはかわいいものです」
孝行、豊、マスター、笑ってしまう。

○同・表
ガラス窓に水滴がつく。ドアの開く音。
客(男)の声「雨だよ、参ったね」

○バックパッカーズ・ホステル・浴室
シャワーを頭から浴びるジャネット。

○同・ラウンジ
外国人旅行者のたまり場になっている。ジャネットが雑談に加わる。

○喫茶店・中
孝行、心太郎が座る。コーヒーは三つ。
孝行「中学から英語はしっかり勉強しておけ」
心太郎「え?」
孝行「見ただろう。金髪の(ジャネット)。あんな子とつきあえるかもしれないんだぞ」
心太郎「だから、英語?」
孝行「そうだ。ドーンだぞ(と手で胸を強調)。ボーンだぞ(と手で尻を強調)」
心太郎「ウワ、本当にお父さん?」
孝行「男同士の会話よ」
心太郎「ドーン、ボーンが?」
孝行「(大真面目に)そう(と頷く)」
二人、笑ってしまう。
孝行「好きな子はいるのか?」
心太郎「聞かないでよ(そんなこと)」
孝行「いいじゃないか、男同士だろう」
心太郎「お父さん、いまでもお母さんのこと好き?」
孝行「――」
心太郎「嫌い?」
孝行「好きだ」
心太郎「(驚き)好きなの?」
孝行「嫌いだ」
心太郎「どっちかはっきりして」
孝行「好きだ。嫌いだ」
豊が現われ椅子に座る。
豊「ホテル、予約しておいた」
孝行「はあ?」
豊「今日は泊まっていけばいい。普段ろくに話もしていないのだろう。
こういう機会に二人でじっくり話し合わないでどうする」
孝行「明日は会社が」
心太郎「僕だって学校がある」
豊「休めないことはないだろう。仕事や勉強よりも大切なことはある。違うか?」
孝行「そりゃあ、そうだけど――」
豊「今日、逢ってな。正直言って、二人ともひどい顔をしていると思った。
あのイギリスの女の子は実にいい顔をしていた。ところが、おまえらときたらどうだ。
疲れ切っているじゃないか。どうして休まない? 何かをしていないと不安か?」
孝行「競争社会だからね。がんばらないと」
豊「がんばりゃ偉いのか? 富士山はどうだ? 富士山は何もしていないだろう。
ただそこにいるだけだ。しかし、富士山は偉い。何もしなくていい。いるだけでいい」
孝行「メチャクチャな理屈だな」
豊「今晩、何も話さなくたって構わない。解決なんて目指すな。
ただ息子の横で寝ていればいい。心太郎は父親の疲れた寝顔を見ればいい。
それだけでいい。いいんだ」

○ホテル・外観(夜)

○同・中(夜)
心太郎はテレビを見ている。
孝行は冷蔵庫を開ける。
孝行「ジュースでも飲むか?」
心太郎「いいよ。高いんでしょう」
孝行「このくらい気にするな」
心太郎「お父さん」
孝行「うん?」
心太郎「こうしない」
孝行「何を?」
心太郎「明日、富士山が見えたら離婚しない」
孝行「だって、明日は晴れるんだろう。おじいちゃん、言っていたじゃないか」
心太郎「わかんないよ」
孝行「富士山が見えたら、か」
心太郎「うん」
孝行「どこにする。カチカチ山か?」
心太郎「え?」
孝行「いいじゃないか。そうしよう」
心太郎「嘘でしょう」
孝行「天に任せるというのは、そういうことを言うのかもしれない」
心太郎「本気?」
孝行「ああ」
心太郎「やめようよ。離婚とか、天気で決めるものじゃない」
孝行「決めるのは富士山だ」
心太郎「どうかしちゃった?」
孝行「心太郎が言い出したことだろう」
心太郎「そうだけど」
孝行「なら、どうして反対する」
心太郎「子どもの考えだよ」
孝行「心太郎はもう子どもじゃない」
孝行が缶ビールを開けると泡、泡、泡。

○土産物屋・奥の寝室(夜)
豊と節子は布団を並べて寝ている。
節子が豊の布団の乱れを直してやる。

○河口湖・俯瞰(朝)
薄日が射す。

○カチカチ山のロープウェイ

○カチカチ山・展望台
心太郎、孝行、豊がやって来る。
雲に覆われて富士山は見えない。
心太郎「(真剣に)富士山、きれいだね」
孝行「え?」
心太郎「おじいちゃん、富士山、見えるよね?」
豊「――」
心太郎「富士山、立派だね」
豊「どうした?」
心太郎「富士山、見えるでしょう?」
豊「(心太郎に気圧され)ああ」
心太郎「お父さん、富士山、見えたね」
孝行「――」
心太郎「僕には見えるよ。僕に見えるものがお父さんに見えないはずないよね」
孝行「心太郎」
心太郎「お父さんにも富士山、見えているでしょう?(と孝行にすがりつく)」
孝行「見えた。いま富士山が見えた」
心太郎「ありがとう」
孝行「礼なら富士山に言いなさい」
心太郎「富士山、ありがとうございます」
孝行「俺からも。――ありがとう」
三人は見えない富士山を見る。

○河口湖駅
土産物の紙袋を両手にかかえた孝行と心太郎。二人を見送る豊と節子。
節子「(心太郎へ)またいらっしゃいね」
豊「(孝行へ)話し合おうとか意識しないことだ。
家族なんてそばにいれば、それだけでいい」
孝行「うん」
豊「何もしないのがいちばん難しい。何もしない。何も言わない。しかし、そばにいる」
心太郎「(おどけて)おじいちゃん、大丈夫。これがあれば(と両手の土産物を掲げる)」
豊「そうか(と微笑)」

○走る富士急行線

○同・中
心太郎が寝ている孝行を起こす。
心太郎「起きて。富士山が見えるよ」
窓の外は快晴。孝行は車窓から富士山を見ると、携帯電話を取り出す。
孝行「(電話へ)お父さん、いまね富士山が」
豊の声「ちょうど電話しようと思っていたところだ。いまどこにいると思う?」

○カチカチ山・展望台
携帯電話を手にした豊。その横に節子。
豊「(電話へ)カチカチ山だ。富士山がようく見える」
ジャネットが通りかかる。
豊「急用だ。また電話するからな」
豊とジャネットは微笑みを交わす。
豊「ご縁があるんでしょう(と富士山を指す)」
節子「日本語で言ったって」
ジャネット「(何となく意味が伝わり頷く)」
豊「ほうら、伝わった。人間は言葉じゃない」
団体客がやって来る。老人が多い。
みな富士山の威容に思わず合掌する。
ジャネットはリュックから絵葉書を取り出し豊と節子に見せる。
インド、ガンジス河の沐浴風景。祈るインド人たち。
目前には富士山に祈りを捧げる日本人たち。人間は祈る。願う。
豊「わかる。人間はおんなじ」
豊と節子は何度もジャネットに頷く。
豊と節子は富士山に合掌する。その真似をしてジャネットも合掌する。
展望台にはたくさんの絵馬がつられている。
人間の様々な願望。絵馬の一つ。
「心太郎、中学合格。孝行、家庭円満。豊、商売繁盛」と書かれている。

○走る中央線・中(夕方)
疲れた孝行と心太郎が並んで寝入る。


(後記)ブログ画面だとたいへん読みにくいでしょう。
申し訳ありません。
このような環境にもかかわらず最後までお読みいただき、
本当にありがとうございます。
すごい雪ですね(東京)。いま帰宅しました。もう雪まみれ。
客が来ないせいかスーパーで白子が安く買えた。480円→150円。
あん肝と白子は冬の大好物。冬しか食べ(ら)れないのがいい。
子どもや犬のように雪に浮かれてスピリッツを買い忘れてしまった。
明日買うのを忘れないようにしないと。

2月になったわけですが、みなさまの平成22年1月はいかがでしたか?
もう1/12が終わってしまったという感覚でしょうか。
よく久々に連絡する相手に「お変わりありませんか」というでしょう。
あれはどうなのかね。
「変わっていない」のがいいことなのか、それとも逆なのか。
人間は潜在意識的に「変化」を求めている。
だから、ドラマや漫画を好むわけです。
しかし、表面上は「変化」がないことをプラス(=平穏無事)として認識してしまう。
人間のおもしろいところですね。

さてさて、みなさまにおかれましてはお変わりありませんか?
こちらはいろいろと――変わったことも変わらないこともあります。
そのうちブログに書くことも、書かないこともあるでしょう。
雪を降らせるのは自然です。冬が春に「変化」するのも自然です。
今晩の雪を真下で受けとめながら、とても癒されました。
今日、雪が降ることで自分のなかでひと区切りのついたことがあります。
もちろん、天はわたしのために雪を降らせたわけではない。
わたしが勝手に雪を意味づけしただけともいえましょう。
自然ということ、をしみじみ味わっています。酒と白子とね♪