シナリオ・センター第7回提出課題。「一年後」(6枚)。

<人物>
磯塚素子(42)主婦
磯塚直樹(44)その夫で会社員
磯塚大輝(14)その息子
住職(60)
大輝にそっくりの少年(15)

○寺・庫裏
セミの声。磯塚大輝(14)の遺影。
畳の上で磯塚直樹(44)、磯塚素子(42)の夫婦と住職(60)が向き合う。
夫婦の脇に骨壷。素子の膝に大輝の遺影。
住職「いまのあんたらには何を言っても無駄でしょう。
これもおかしなご縁。私も息子を自殺で亡くしています。9年も前になる。
幸い私にはもう一人息子がいたが(と言葉に詰まる)さぞかしお辛いことでしょう。
ナムアミダブツがわかった。親から受け継いだもんで(と袈裟を示す)
息子に死なれて初めてナムアミダブツがわかった。お坊ちゃんの」
素子「大輝です。大きく輝くと書いて大輝」
住職「大輝君はいまごろ極楽浄土で遊んどる。笑顔で、必ずだ。
自殺は罪だなんていう宗教は間違い。
自殺するほど苦しんだものはあの世で楽ができる。
あんたらはこれから苦しいでしょうが、ナムアミダブツじゃなくていい。
ただ大輝君と呼んであげ、手を合わせ目をつむる。
きっと笑っている大輝君が見える。見えるんですよ、見える」

○大輝の遺影
居間の一角に遺影が置かれている。
その上に窓があり空が見える。
遺影の前に梨。窓外は曇天。
遺影の前にミカン。窓外は降雪。
遺影の前にイチゴ。窓外は快晴。

○歩行者天国
雑踏の衣服は薄着。素子が立ちどまる。大輝そっくりの少年である。
素子「大輝? 大輝でしょう」
少年は逃亡。名を呼びながら追う素子。

○磯塚家・居間(夜)
遺影の前にはスイカ。テーブルに素子と直樹。弁当を食べ終わっている。
素子「今日ね」
直樹「うん?」
素子「なんでもない」
直樹「スイカ買ったんだ」
素子「大輝が大好きで(と声を震わせる)」
直樹「だから、ずっと買わないのかと」
素子「食べよう」
素子は冷蔵庫からスイカを取り出す。
夫婦はスイカを味わう。
直樹「(きみが)塩をふる(と驚く)」
素子「あの子、どうしてスイカに塩なんて」
直樹「おれに似たんだ」
素子「甘い。スイカってこんなに甘かった?」
直樹「甘いね。こんなに甘いのは滅多にない」
素子は笑う。笑いが泣きに転ずる。直樹は素子の肩に手を置く。直樹も泣く。
素子「大輝――」
素子は合掌して黙祷する。

○天国
大輝が笑顔でスイカを食べている。


(補)一部セリフのなかに括弧でト書きを入れているから、
また添削者に赤字で注意されるんだろうな。
「ト書きはセリフの外に出してください」とか。
狂ったようにシナセンルールを強制する先生には参るよ……。
そんなに新井一は偉いのかねえ。新井一の代表作ってなによ(笑)?
困ったのが、これだと原稿用紙に書き続けなければならないこと。
後藤先生は、赤字が少ない人にしかパソコンでの課題提出をお許しにならない。
おれ、原稿用紙に字を書くのが大嫌い。
ううん、土下座をして頼んでみたらどうだろうか。
やれやれ、これから1時間かけて、このデータを原稿用紙に書き写します。
最初は住職ではなく坊主と書いていたけれど、
添削者に朱筆を入れられるのが嫌だから住職に直しておいた。
ほんとうは坊主と書きたい。坊主でいいじゃん。