本日放送のドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」を視聴する。
売れない芸人の悲惨な生活が特集されていた。
こういう番組はぜひとも文部省が買い上げて、全国の高校で生徒に見せるべきだと思う。
夢なんて見ても、なんにもいいことがないんだよと教えるためである。
小学生、中学生はまだ夢を持っていてもいい。
持っているべきだと思う。
しかし、高校生になったらこのような現実を教育の一環として見せるのはどうか。

番組に登場する売れない芸人は「コラアゲンはいごうまん」さん38歳。
吉本のお笑い学校出身である。下積み19年。一度も売れたことがない。
タイトルにある通り年収は100万円らしい。
お笑いで売れたいという夢を追いつづけた結果である。
かれの芸人生活は、みじめなものである。
せっかくパーティーに呼ばれてもだれにも見向きもされない。
地方へどさまわりへ行き公民館で老人をまえにアホをやるのがかれの芸能生活。
収入はカンパ。
田舎のじいちゃんばあちゃんは100円玉をもったいぶって箱へ入れる。
お笑い芸人コラアゲンは、ふかぶかと頭を下げるのみである。

いまはワハハ本舗の社長を師と仰いでいる。
社長さんの自慢は久本雅美と柴田理恵を世に出したこと。
だから、おれはすごいというのが社長の自信のみなもとのようである。
久本、柴田は運がよかったから出世したのではない。
この社長さんが才能を発掘して育てたから久本、柴田は成功した。
よくわからないが、お笑いの世界ではこうなっているらしい。
ワハハ本舗社長はコラアゲンをゴミクズのように取り扱う。
コラアゲンとしてはこの社長の言いなりになるしかないのである。
なぜじぶんは19年間もがんばっているのに売れないのだ?
がんばれば報われるはずである。
ならば、がんばりかたが正しくないに違いない。
かくしてコラアゲンはいごうまん38歳は社長の犬になる。

ノンフィクションお笑いをやれとコラアゲンは社長から命令される。
あたかも社長はふざけ半分でコラアゲンをからかっているようである。
コラアゲンは体験取材をする。
たとえばヤクザ事務所に弟子入り、インド放浪、詐欺商法の調査――。
実体験からお笑いを作っていくという方法だ。
コラアゲンは社長の命令にしたがいもう6年もこの手法を実践しているが、
ちっとも売れる気配はない。

売れない芸人がこんなにもぶざまであることを知らなかった。
マスメディアは成功者しか取り上げないからである。
成功者はいう。夢を見よう! 決してあきらめるな! 夢はかならずかなう!
売れない芸人コラアゲンはいごうまんはまるで捨て犬のようである。
がんばる→だが、売れない→自信喪失→卑屈になる→売れない。
売れないスパイラルがみごとにできあがっている。
お笑い番組のディレクターから、道端に落ちている犬の糞を食べろといわれたら、
コラアゲンはしばらく迷ったのちに、少なくとも食べるふりくらいならしそうである。
芸人にとって、売れないとはそういうことなのである。

夢をあきらめないコラアゲンはいごうまん38歳は美しいのだろうか。
全国の高校生諸君に問う価値があると思う。
お笑い学校。映画学校。俳優養成所。シナリオスクール。小説道場。
若者は夢を見ろとテレビはがなりたてる。
まるで夢を持っていない若者は生きている意味がないようなことさえいう。
だが、みながみな夢がかなうはずもない。
ひとりの成功者の背景に百人、いや千人の敗残者がいるのである。
なぜ若者はだれもがじぶんがそのひとりになれると思うのだろうか。

最後に、「コラアゲンはいごうまん」さんの芸について感想を述べなければならない。
お笑い芸人なら、貧乏生活よりも、芸を見てもらいたいと思うはずだから。
正直、よくわからない。
わたしはお笑いにまったく興味がないからかもしれないが、
たまにテレビで見かけるお笑いと大した差があるように思えない。
テレビでやっている芸と同程度にわけがわからない。
テレビでやっているのがおもしろいのならコラアゲン氏も売れてもいいと思った。
コラアゲンはいごうまん38歳のがんばりは痛々しいほどである。
おそらくかれの1/10もがんばっていない芸人が売れているのだろう。

救いがないわけではない。
コラアゲンは好きなことをやっていることが、救いだ。
たとえ売れなくても食えなくても、好きなことをやれているのは疑いもなく幸福だ。
若者よ、夢なんて持つな。
だが、好きなことは見つけたほうがいい。
好きなことをやりつづけるというのはたいへんだが、
ほんとうに好きなことならやりづづけることができるはずである。
その好きなことでスポットライトを浴びるかどうかは時の運。
売れても売れなくても好きなことをやっているのだからよしとする。
コラアゲンはいごうまん38歳もきっとそのように思っているはずだ。
たとえこれから死ぬまで下積みだろうが、そう思っていれば少なくとも絶望はしない。

もうひと組、女のお笑い芸人コンビが登場していたがこちらは影が薄い。
もうすぐ芸人をはじめて10年になるらしい。さっぱり売れない。
「10年やればかならずものになる」などという成功者は多いが、現実はこんなものである。
女はいざとなれば結婚があるから、夢見がちでもいいと思う。