だれだわたしを呼んでいるのは? 声がする。だが、どこからかわからない。
部屋をぐるぐる徘徊パンダ。四足(よつあし)で歩いてみる。くんくんと鼻をきかせる。
耳をそばだててみる。かすかな声が聞こえるのである。どこから呼ばれているのだろう。
パソコンを起動。もちろん訪問するのは2ちゃんねるである。
孤独とこの匿名掲示板はビールと枝豆以上に相性がよろしい。
ロムっているスレッドをつぎつぎに見ていく。ここだったか!
2ちゃんねる海外板のインドスレッドでわたしを呼ぶ声をついに発見する。
9/29、30と代々木公園でインド祭りをやっているのである。
正式名称は「ナマステ・インディア2007」。ナマステはインドのニーハオである。
昨日行くべきであった。今日は朝からひどい雨である。
しかし、呼ばれたら行かざるをえない。傘を片手にヨンダッシュで家を飛び出る。

ひどいところに住んでいる。
昼過ぎになると電車を1本乗り過ごすと20分待たされることもある。
電車の到着が遅れていたので、運よく乗車する。
今日は日曜日。わたしは朝からなにをしていたのだったか。
ブログにえんえんと愚痴を書いた。
これを読んだひとは、まずむかむかするだろうなとわかっていながら書いたのである。
律儀なのだ。絶望もおすそわけしなければ申し訳ないような気がするのだから。
しっかし、我ながらよくやるもんだとあきれる。
書いた後に文字数を計算したら原稿用紙10枚も愚痴を書いているのではないか。
かかった時間はわずか2時間である。
ヒマなわたしにとっては「わずか」2時間だが、多忙なかたは驚くかもしれない。
2時間もかけてブログに愚痴を書き込んで、あんたの人生はそれでいいの?
バカだからわかんなーい、あひゃひゃ。
じぶんで言うのもなんだが、あの否定的情熱というのはなにかに生かせないものか。
ブログで無駄に発電するより、もっと有効活用できないものだろうか。

新宿到着。下車する。なんで原宿までダイレクトに行かないのか。
歩きたいのである。新宿から原宿は、むかしからお気に入りの散歩コースだ。
いまだに新宿駅の構造がよくつかめていないが、なんとか構外へ脱出。歩き始める。
パンダも歩けばブックオフ。代々木店である。見るのは105円棚のみ。収穫はゼロ。
たまに古本のヒキのよさを驚かれることがあるけれども、なんのことはない。
ただヒマなのである。裏側は、へたな鉄砲数撃ちゃ当たるだ。
代々木から原宿へは明治神宮を抜けていく。ここを歩くのが好きなのである。
木々が鬱蒼とおいしげる、この感じがたまらない。明るくないのがなによりいい。
どれだけ太陽が大地を照らそうが、ここだけは神秘の膜でおおわれている。
今日は雨がふっているので、なおのことこころ安らぐ。
聖域が好きなのである。相対が嫌いだ。人間はときに絶対と向き合わねばならぬぅ♪

「ナマステ・インディア2007」である。
会場へ一歩、足を踏み入れる。インドの臭いがして、立ちくらみを起こしそうになる。
インドには2回行ったことがある。初回は大学生時。3週間の旅行だった。
2回目は3年前。3ヶ月かけてインド全土を分け入った。
いまだからばらすが実は死ぬための旅だったのである。インドは危険な国だ。
この国ならわたしを殺してくれるのではないか。
ウソではない。大真面目であった。当時、海外旅行保険でだいぶ迷ったものである。
すなわち、死亡保険の掛け金。どうせ死ぬのなら大金を遺したいじゃないか。
インドでも1日として欠かさず酒をのみ、そうとう暴れまわったが、
結局のところ運がいいのだろう。
まだこうして生きている。もちろん、何度か死ぬかと思ったときはあったが。

インド、インド、インド♪ 
歌いながらヨンダンスをしたくなるがここは代々木公園。自宅ではない。
必死の思いでこらえる。
ずるくてウソつきでとことんがめついインド人があちらこちらにいる。
言うまでもないが、日本へ来ることができるようなインド人はスーパーエリートである。
しかし、インド人であることにはかわりがない。
懐かしいな。だって3ヶ月もいたもんな。インド人よ、なんでそんなに濃いんだよ!
視界にインド人があふれている。ここはインドかと疑う。
インド人は世界最悪の人種である。
自分勝手。ウソつき。理屈っぽい。見栄っぱり。
カネに細かい。そのくせ、ほかのことにはいいかげん。
だけど、ううう、そんなインド人が懐かしくてたまらない。

ここはインドである。
インド料理の屋台が軒を連ねている。インドの雑貨店も洋品店もある。
歩いているだけで小躍りする。
予想していた来客数が、雨のため大幅に減少しているのかと思われる。
屋台はどこも狂ったようなダンピングをしている。それもお祭りらしくていい。
年に1回の祭りだぜ。損得がどうのと細かい計算なんか捨てちまえ!
生ビールが200円になっているのにぎょっとする。
まあ、その、なんだ。
どうせひとりだし、見まわすと友人連れ、恋人連れも多いから、ここはのむしかないだろ?
売り子が日本人女性の屋台で。
「生ビールくださいな」
「これをまず持ってください」
紙に包まれたブツを手渡しされる。見ると、手羽先である。うわっ、インドキター♪
こういうところはほんとインドらしくて怒る気にもならない。
商品を手渡してしまったものが勝ちである。ここは負けた。料金を払おう。
「これいくらなんですか?」
「サービスです」
えええ? どっひゃあ! 
200円で生ビール、さらにはつまみまでついてくるって、ここはどこの国ですか?

歩きながらビールをぐびり。くうう、うんめえ!
たかがビールがなんでこんなにうまいのだろう。
わかった。久しぶりだからである。思えば、何ヶ月ぶりであろう。
家ではビール未満、発泡酒以下の、およそ最低というほかない黄汁ばかりのんでいる。
生ビールがこれほどおいしいものとは。サーバーの掃除も行き届いているのだろう。
雨宿りできる場所を見つける。手羽先にがぶりつく。かああ、うんめえ!
インドで食べたどのタンドリーチキンよりもうまい。
意外と知られていないがインドで食うインド料理はまずい。高級店でも同様。
正確にはまずいのではなく、日本人の口に合わないのだと思う。
ぱさぱさの鶏肉で作られたタンドリーチキンに、かの地でどれだけ憤ったことか。
しかし、ここはニッポン。よくあるタイプの手羽先にカレー風の味つけがなされている。
この味はなんだろう。これはインドのスパイスなくしては決して出せない味である。
日本の肉を噛みちぎる。インドの味をビールで洗い流す。極楽だぜえ。こりゃたまらんよ。

酒が入って、ようやくまわりを観察する余裕が生まれる。
白人も少なくない。みんなインドが好きなんだな。
よく見ていると、このお祭りにひとりで来ている日本人も少なくないようである。
思ったとおりだ。うれしくなる。やはりひとりはよろしいインド(山頭火風味)。
インドを好むのは変わり者ばかりである。変人がそうそう他人とうまくつきあえぬ。
いいなと思う。インドはすばらしい。インドが好きな日本人もいい。
なんだか哀しくなってくる。
こんなことでなみだぐむわたしもよほどの変人なのであろう。
酒が足りないのだと即断。おなじ屋台でもう1杯生ビールをいただく。
また手羽先がついてくる。
申し訳なくなって、100円のチキンサモサも買うことにする。
もとの場所に戻って、このサモサ(コロッケ)を食うと、これもたいそう美味なり。
インドで数えきれぬほどサモサを食したが、これほどうまいのはなかった。
つまり、日本人の口と合うということなのだろう。

インド祭りを満喫する。最後にここまでわざわざ来た目的を果たす。
MTR社のインド産レトルトカレーを購入しなければならない。
ながながと説明する余裕はないが、インドのカレーと日本のカレーはまったく別物。
日本人はインド人が毎日カレーを食べているのに驚くが、
カレーといってもかの天竺(てんじく)では多種多様なのである。
インドカレーの特色はベジタブルカレーにある。インドには菜食主義者も多い。
したがって無数のカレーが生まれるわけだ。
これがまた、うまいのだ〜よ。インドでチキンカレーやマトンカレーを食べちゃダメ。
そんなのは日本でも食べられる。
しかし、インドの野菜カレーはかの地でしか食べられぬ。
というのはもちろんウソで、
いまわたしが紹介しているインド直輸入のレトルトカレーなら日本でも食べられる。
ネットでだれでも国籍を問わずに購入可能。
ところが、問題がないわけではない。
むずかしいことではない。単価が高いんだ。それに送料まで発生してしまう。
わたしがこのレトルトカレーの味を知ったのは一昨年のインド祭りである。
じかで買うと、なぜか安い――。

予想通り、本日もレトルトカレーの出店はあった。
例年のように4つで1000円のセールをやっている。
ネットで買うと、ひとつ400円近くする。
だが、これで満足するようなインドがえりはいない。
「たくさん買うからおまけしてくれない?」
「いくら買いますか」
いかにもインド人らしい日本語である。
「4000円ぶん買う。いくつもらえる? 1000円で5つ。20個はダメ?」
「それはむずかしいです。ふたつ、おまけします。4000円で18個」
そもそも1000円で4つでもかなりのお買い得なのである。
このあたりで手を打つことにする。
しかし、とも思う。去年、横浜で行なわれたインド祭りでは4000円で21個くれたぞ。
横浜に比べると代々木はしぶいのだろう。
オクラカレーを10。チーズカレー4。トマトカレー3。
それから新種の天ぷらカレーをひとつ。
このオクラカレーは、気が狂うほどうまいのだからな。
去年買ったのがいま家に2つ残っている。
食べるのは困難ではない。うちに来てくれたら、みなさんにご馳走します。
食通の友人、ムー大陸さんもこれを絶賛していた。松屋カレーどころではないのである。
帰途はほくほくであーる♪
これでしばらくはインドカレーに不自由しない。こんな幸せなことがあろうか。
電車に乗ると対面の窓ガラスにうつったわたしの顔がやたらニヤニヤしている。
これはよくない。ニヤニヤをニコニコに変える。
この晩、酒のつまみとして本場のインドカレーを堪能したのは言うまでもありませんよね?