いまは絶版になっている井上靖の中間小説を入手して、
酒をのみながら読むたびに思う。
井上靖の小説はまるで宮本輝が書いたようである。
言うまでもなく、先輩後輩の順番は逆。
宮本輝が井上靖から多大な影響を受けたということなのだろう。
しかし、ここまであからさまにやっていいのかと
いまは読むひとのいない井上靖の絶版文庫を読みながら思うことしきりである。
人間の傾向性(創価学会では「境涯(きょうがい)」などという)がよほど似ているのか。
宮本輝の全作品を繰り返し読んだものとしては、
井上靖の小説をどう受けとめたらいいのか複雑である。

梅原猛によると松本清張はルサンチマンの塊(かたまり)。
またルサンチマンを解消する名人だったという。
たえまなく仮想敵を作りあげ、かれへの恨み辛み妬みから創作する。
地位も名声も手に入れた松本清張が最後に標的にしたのが井上靖だったらしい。
松本清張といえばカトリック作家の遠藤周作が愛読していたのは知られていない。
晩年の遠藤周作が編集者にこう言ったという記録が残っている。
松本清張さんの小説はぜんぶ読んでいる。きみも編集者なら読まなければダメだ。
説教魔・遠藤周作のエピソードのひとつとしてである。
これは学術的な考察ではなく、いわばゴシップだが、出典はすべて明示できる。
あえてやらないのは面倒だからということもあるが、
うちのブログの読者は研究などとは無縁のひとが多いと思うからでもある。

以下はおまけだが、
さてその遠藤周作は山田太一と対談している(だからなんだと言われると困る)。
山田太一といえばブログ「本の山」の最大関心テーマのひとつ。
このドラマ作家が青年時代、影響を受けたのが大岡昇平、三島由紀夫、福田恒存。
遠藤周作は三島由紀夫をいちばん意識していた作家とも言われている。
三島自害の前日に、遠藤一行が三島邸を訪れたが、
しかし引き返したというのは有名なエピソード。
割腹した三島由紀夫を、死者に鞭打つかのごとく批判したのが「男性自身」の山口瞳。
山口瞳がエッセイで山田太一ドラマ「さくらの唄」を大絶賛しているのを知ったのは最近。
大岡昇平と福田恒存の交友は兄と弟のような情熱的なものだったという。
ふたりは全共闘問題で絶縁したが、晩年仲直りしたと高井有一が書いている。
三島と福田は劇団運営で争ったことで知られている。
遠藤周作は福田恒存の演劇論から大きな影響を受けている。
けれども、遠藤は福田の演劇論から飛躍して素人劇団「樹座」を始めた。
これはいまこそだれも評価するものはいないが、とても前衛的なものだったと思う。
寺山修司のアングラ演劇などより、よほど遠藤周作の「樹座」は前衛だったのではないか。
以前、このブログに書いたように寺山修司と山田太一は早稲田大学時代の親友。
寺山は三島を……と書き連ねてもいいが、このへんでやめにしておこう。
ことほどさように(かつてあった=いまはなき)文壇の系図はこみいっている。
だが、なんと魅力的だったことか――。