某月某日、引越をする。頼んだのはユアーズ引越センターさん。
選んだ理由は安いから。あとHPがしっかりしていた。

「ユアーズ引越センター」
http://www.yours-co.jp/

社員教育を強調していたので、どんなひとが来るのか楽しみだった。
当日は、梅雨にもかかわらず快晴。
かれらは約束の9時より40分も早くやってきた。
まだ準備が終わっていなかったので約束の9時まで待ってもらう。
窓から階下の引越作業員をながめて絶句する。
ぜんいんあたまにタオルをまいて、なんというのかその。
がらがわるいというしかないんだ。

玄関をあけて入ってもらう。まさかこれほどひどいのが来るとは!
イレズミ野郎である。腕と足におどろおどろしいイレズミが。
わざわざそれを見せつけるようタンクトップ。ズボンも膝上まであげている。
どうやらかれがリーダーのようである。
あとは明らかに派遣とわかるおにいちゃんがふたり。おっさんの運転手がひとり。
計4人だが、派遣くんは引越になれていないようで足手まといになっていた。

やりかたはイレズミくんが部屋内にとどまる。
派遣ふたりが荷物を台車で階下へおろす。運転手がトラックに積み上げる。
つまり、わたしがおもに接するのはこのイレズミくんというわけだ。
ひと言でいう。怖いんだ。イレズミくんが怖い。
常に切れる直前のテンパった表情をしている。
いきなりぶち切れて家具を壊しだしそうな威圧感があるのである。
話しかけられないので困った。
向こうはこちらへいろいろと注文してくる。
布団をここに入れてください。これを移動しておいてください。
どちらが客だかわからない状態。
困ったことにイレズミくんの言葉がわからない。
あれはなまりなのかな。なにを言っているのかわからないのである。
「ふぇりたどしますか」
恐るおそる何度も聞きなおしてかれがプリンターを問題にしていることがわかる。
終始、こんな調子である。

ふたりの派遣くんは露骨にイレズミ氏をおそれている。
「これどうしますか」
イレズミがなにかをいう。ところが、聞き取れない。
客でもないかれらが聞き返すのは恐怖であろう。
わからないままとりあえず働いているふりをする派遣くんたちが哀れであった。
冷蔵庫を壊される。目のまえで下の部分がぽきりと折れたのである。
見てみぬふりをすべきか迷う。震えた声でイレズミ氏に聞いてみる。
「いま冷蔵庫、壊しましたよね」
返答はこうである。
「壊れていないよ。またくっつくから」
ええ、はあ、そういうもんなんですか……。
あとで確認したが、もちろん壊れた部分はどうにもならなかった。

パソコンのあつかいもひどいものである。
営業は専用のボックスに入れるといっていたが、実際は――。
なんのカバーもしないでふつうにダンボールに入れるだけなのだから。
壊されると確信したね。
勇気をふりしぼっていう。
「それ……もう少し丁寧に、壊さないでほしいんですが」
「大丈夫、大丈夫!」
イレズミくんは笑顔というものがない。一貫して怒っているのである。
引越作業員としたら最適なのかもしれない。
あの顔で、あの肉体。イレズミ。標準日本語を話せない。
これでは顧客は文句をいいようがないではないか。
極めて乱暴に荷物を持ち運ばれる。
集金タイムである。5万2千円支払う。心づけは渡すもんかと思った。

12時。引越先に到着。またも部屋担当はイレズミ氏。
ひでえもんだ。ダンボールの側面には収納物を書いてある。
常識的に考えたら、そちらが見えるようにダンボールを積み上げるでしょう。
反対に積み上げてしまったら、なにが入っているかわからなくなるのだから。
イレズミくんは、いっさいわれ関せず。でたらめにダンボールを積み上げる。
うーん、さすが引越のプロ(笑)!
これも社員研修の賜物なのですか、ユアーズさん?
とにかく早くやっつけようという魂胆が見え隠れ。いや、隠そうともしない。
洗濯機を取り付けるのは無料サービスだと聞いていたがやろうとしない。
これはお願いしないとまずいなとイレズミに声をかける。
「あのう、洗濯機を、取り付けまで、営業さんが」
恐怖でこちらの日本語までおかしくなっている。
イレズミが真顔でふりかえる。殴られると思ったね。
怒鳴りたいのをぐっとこらえたといった感じ。
「やりますよ」

洗濯機の排水管を右から左へ動かさなければならないようである。
「ドライバーありますか」
ごめんなさい。ないんですが。
するとイレズミくんはどうしたか。無断でうちの包丁を持ち出す。
その包丁をドライバーがわりに作業をはじめる。
おいおい、包丁は食べ物をあつかうものだぞ。
そんなふうに使われたら、もう台所で使用できないではないか。
洗濯機のまえに座りこんでいるイレズミ氏をながめながら、これはいいと手を打った。
イレズミ氏が実に生き生きしているのである。
包丁をにぎっているイレズミ氏はなんとも美しい。一枚の絵になっている。
キチガイに刃物!
不謹慎な日本語があたまをよぎる。イレズミには出刃包丁がお似合いだ。

ユアーズ引越センターの猛者(もさ)は去っていった。
実害を記す。冷蔵庫破損(ただし稼動の異常はなし)。
テレビとビデオのコードをなくされた。
取り外しがわからなかったので、聞いたら「やっておく」とのこと。
結果が紛失である。テレビコード2本で2400円。ビデオコード1200円。
新品の包丁を買いなおすのに2000円。
以上である。この程度で済んだのだからよしとすべきか。
ユアーズに苦情を入れるつもりはない。
格安料金でお願いしたのだから、まあ、こんなもんだろう。
安いものを買う以上、ある程度の覚悟は必要だと思っている。
ネットの情報だと4トントラック。作業員3人の午前便だと相場の最低は6万円という。
こんかい5万2千円で依頼。被害金額が6千円弱。合計でだいたい6万円。
あんがいこの世の中、うまくできているのかもしれない。

(注)ごぶさたしています。
ぶじ引越を終えたことを、この記事をもって報告します。
ネットも本日なんとか開通。
これからも「本の山」をよろしくお願いします。