2月某日、警視庁サイバー犯罪対策課に電話する。
通話中でなかなか通じないので何度もかけなおす。
ようやくつながる。向こうはとても忙しそうな雰囲気。何人もの声が聞こえる。

警察官「どういったご相談ですか?」
わたし「ありがちなんですけれど、2ちゃんねるに名前と誹謗中傷を書かれてしまい」
警察官「具体的にはどういった内容でしょう?」
わたし「私が人のバッグを盗んだことがあるとか」
警察官「(パソコンに入力している)」
わたし「放火しようとしたことがあるとか、とある新興宗教の信者だとか」
警察官「(パソコンに入力しながら)まだあるんですか?」
わたし「お、親を殺したとか」
警察官「どうして、あなただとわかるんですか?」
わたし「むかし通っていたシナリオ学校のスレッドだからです」
警察官「どうしてそういうことをされるのだと思いますか?」
わたし「ブログでその学校を批判したことがあるからではないかと」
警察官「へえ」
わたし「名前は土屋顕史というんですけれど」
警察「どういった漢字ですか?」
わたし「(説明する)」
警察官「検索してみましょう」
わたし「え、検索するんですか。自分の悪口を見るのがいやで最近はぜんぜん」
警察官「(構わず検索している)」
わたし「(やむなく検索する)」
思いのほか上位に誹謗中傷が書き込まれていることに驚く。

警察官「(2ちゃんねるでいかに削除が難しいかを長々と説明する)」
わたし「ええ、知っています。むかし削除依頼したことがありますから」
警察官「だから、あとは弁護士さんに相談して、民事裁判でどうにかするしか」
わたし「へえ」
警察官「ただしお金がかかりますけれどね」
わたし「はあ」
警察官「住所等が書き込まれていて脅迫行為があれば最寄の警察署へ」
わたし「まあ、あのくらいじゃ無理ですよね」
警察官「うーん、ちょっとどうしようもないですね」
わたし「あきらめるしかないですよね」
警察官「――」
わたし「はあ、あきらめるしかないのか」
警察官「(苦笑して)私の立場からはあきらめろとはいえませんが」
わたし「でも、私、人のものを盗んだことなんてないし、放火なんて」
警察官「2ちゃんねるはね」
わたし「はい」
警察官「人の心の中が公開されていると思ったほうがいいですよ」
わたし「心の中?」
警察官「そう。むかしは隠されていた人の心の中が公開されている」
わたし「はあ」
警察官「だから、人の心の中は見ないというのもひとつの方法かと」
わたし「うーん」
警察官「うちのハイテク課でも名前を2ちゃんに書かれちゃったものがいて」
わたし「あるでしょうねえ」
警察官「だいぶ落ち込んでいましたよ」
わたし「わかります」
警察官「でも最後は仕方ないと」
わたし「あきらめましたか」
警察官「――うん」

わたし「(ふざけて)私が名前を聞いたらどうします?」
警察官「え?」
わたし「あなたのお名前を」
警察官「(一瞬、言葉に詰まり、苦笑して)○○です」
わたし「○○さん」
警察官「こういうのも書き込まれるからね」
わたし「そうでしょうね。私はしませんが」
警察官「(苦笑)」
わたし「あきらめるしかない、か」
警察官「――」
わたし「わかってるんですよ。わかっています」
警察官「なにを?」
わたし「(興奮して)だれも私のことなんか興味を持たない。だから、気にすることはない」
警察官「(苦笑)」
わたし「(早口で)わかってるんです。だーれも私なんかに関心を持たない」
警察官「(相手がなにをいいたのかわからない)」
わたし「しかし、もしですよ。もし奇跡が起こってだれかが私に興味を持った。検索する」
警察官「はあ」
わたし「ああいうデマが目に触れてしまう。それで私という人間が判断されてしまう」
警察官「はあ」
わたし「これは非常に困りますよね」
警察官「まあね」
わたし「でも、あきらめるしかない」
警察官「ああ、グーグルに依頼する手もありますよ」
わたし「グーグルに?」
警察官「名前で検索したときに出ないようにしてもらうよう依頼する」
わたし「へえ。そんなことができるんですか」
警察官「ええ」
わたし「(皮肉に)どうせ依頼は通らないでしょう?」
警察官「それはわかりません」
わたし「そういうしかないですよね」
警察官「私の立場からは――」
わたし「いえ、いいです」
警察官「――」
わたし「――」
警察官「うーん」
わたし「こんなくだらない相談でお時間をどうもすみません」
警察官「いえ」
わたし「どうもありがとうございました」
警察官「いえ。――では(このへんで)」
わたし「はい、失礼します」
警察官「失礼します」

最初からわかっていた「あきらめる」という結論に到達したしだいである。
読者のみなさま、こんな私的なことを長々と書き連ねてどうも失礼しました。
しかし、有名人になってからたたかれるのなら、
まだある種の有名税だと思ってあきらめられるのだろうけれど。
わたしは権力者でも有名人でもない。どちらかといえば底辺に位置する人間である。
とはいえ、あきらめるしかない。なら、あきらめよう。
人生なんて、こんなものだ。人間なんて、こんなものだ。期待しちゃいけない。